連載 おとなが読む絵本——ケアする人,ケアされる人のために・152
思いが届くまで,祈りの灯が消えないように
柳田 邦男
pp.304-305
発行日 2019年3月10日
Published Date 2019/3/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1686201246
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去年の暮れに,用事があって長野県安曇野の森のなかにある絵本美術館森のおうちに立ち寄ったら,たまたま絵本作家・荒井良二さんの絵本原画展が開かれていた。絵本作家は,1枚の絵ごとに,文の言外の意味まで深く考えて,単なる説明的なものではなく,絵自体に何らかの意味をこめたり,文にはない遊びの小物を加えて楽しくしたりして,十分にその絵本の内容と面白さが伝わるように工夫を凝らしている。そのことは,絵本の原画展を鑑賞すると,よくわかる。そういう原画をじっくりと味わって,あらためて絵本を読み直すと,1頁ごとに脳内に刻まれた原画の感触が浮かんできて,絵本の味わいが一段と濃いものになる。
荒井さんの原画展で格段に深い感動を覚えたのは,絵本『きょうというひ』だった。比較的小型の絵本で,展示されていたどの原画も,大きいものではなかった。だが,原画の1点1点が幼い子が描くようなのびやかな童画的タッチであるのに,とても品格があって,読む側の心が清浄化されていく感じがする。色は,黄色や赤が大胆に使われているが,乱暴な感じは全くなく,不思議なくらい清純さが満ちている。
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