連載 おとなが読む絵本——ケアする人,ケアされる人のために・110
どろんこの中で育まれる生きる楽しさ
柳田 邦男
pp.624-625
発行日 2015年7月10日
Published Date 2015/7/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1686200232
- 有料閲覧
- 文献概要
最近,自然の中で生きる身近な生き物のことやいのちのこと,あるいは人間と自然環境の関係などについて,写真家が観察記録の写真によって語りかける写真絵本が多くなっている。大都市で暮らす子どもたちや親たちにとっては,日常的に自然界の生き物と接する機会はあまりに少な過ぎるので,小鳥や昆虫や花や木についての写真絵本は,自然に親しむ心や観察眼を育む上でとてもいい刺激になる。
私は,北関東の田舎町のはずれで生まれ育ったので,わが家の生け垣の向こうには田んぼが広がり,小川でフナやドジョウを獲ったり,稲穂が垂れる田んぼでカマキリやバッタをつかまえたり,里山でカブトムシやクワガタを見つけたりと,野山での遊びの中で育ったものだ。夜には星座を見つけて楽しんでいた。そんな風にして遊んでばかりいる少年時代の私を,母親は一度たりとも,「勉強しなさい」などと叱ったことはなかった。高校時代になると,一流大学への進学成績のいい東京の有名高校を羨む友達もいたが,私はそんなことに関心はなく,小説を読み耽っていた。
Copyright © 2015, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.