書評
シリーズ ケアをひらく『逝かない身体 ALS的日常を生きる』
野田 洋子
1,2
1株式会社マイケア
2アムナス博多訪問看護ステーション
pp.1030
発行日 2010年10月10日
Published Date 2010/10/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1686101880
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押しつぶされそうになる心に,一筋の希望の光
死の淵から戻ってきた彼は「もう少し頑張れそうです」と言った
私が本書の著者,川口有美子さんの名前を知ったのは,TLS(totally locked in state 完全な閉じ込め状態)について調べているときだった。その頃,筆者の訪問看護ステーションでは,ALS(筋萎縮性側索硬化症)の利用者が何度も呼吸停止の状態に陥っていた。数回目の呼吸停止のとき,主治医をはじめ誰もが「これで最後か」と思った。しかし,彼は意識を取り戻した。驚く家族と医療職に向かって,携帯型意思伝達装置である“レッツチャット”で「もう少し頑張れそうです」と言ったという。
生死の狭間から奇跡的に生還したものの,彼の病状では鼻マスク式人工呼吸の限界にあった。医師から気管切開の意思確認がなされたが,答えは「NO」。もともと,彼はALSの診断を受けたときから,「気管切開はしない」と決めていたらしい。その後も幾度となく意思確認が繰り返されたが決心は変わらなかった。そして,今回の“事件”の後も,やはり気管切開はしないと言ったのだ。理由は「TLSになることが怖い。それに,自分はまだ若いので気管切開して長く生きれば看てくれる人がいなくなってしまう」ということだった。
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