連載 彷徨い人の狂想曲[23]
シックワールド
辻内 優子
1
1心療内科・小児科
pp.982-985
発行日 2004年11月10日
Published Date 2004/11/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1686100580
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何気なくつけていたテレビのニュースから,化学物質過敏症という言葉が聞こえてきて,思わず音量を上げて画面に見入った。化学物質過敏症を長年患っていた妻が病いを苦にしてマンションの屋上から身投げをしたという。それだけでも痛ましい事件であるのに,妻が飛び降りるのを手伝ったためにその夫が自殺幇助の罪に問われているというのだ。画面に現れる夫婦の知人は,献身的に妻を介護してきた夫と,病いに苦しんでいた妻を労わり,悪く言う者は誰もいない。化学物質過敏症の見識者もまた,患者は一度ならずこの苦しみから逃れたくて死にたいと思うものだと訴えた。
他人事ではない。私たちの苦しみが積もり積もって生んだこの悲劇がこうやってニュースに大きく取り上げられる皮肉。何度こんな悲劇が繰り返されれば,私たちは分かってもらえるのだろうか。
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