連載 彷徨い人の狂想曲[19]
風花
辻内 優子
1
1心療内科・小児科
pp.620-623
発行日 2004年7月10日
Published Date 2004/7/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1686100524
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蒸し暑い日曜日。1年前の同じ日に歩いた道を,蝉の声に押されながらその家を目指した。去年からまた一段と老け込んだ君江が玄関に顔を出す。仏間に通された梶田啓介は,線香を一本立て火を点ける。手を合わせ,しばし黙祷をしたのち,仏前に置かれた写真に目を遣る。急に吹き出てきた汗を,背中でうるさく回る扇風機が冷やしてゆく。写真のなかの青年は,首に聴診器をかけ,着ている白衣と同じくらい白い歯を見せて笑っている。
「いつも遠いところ,ありがとうございます」
麦茶い浮いた氷がカランと音を立てる。
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