連載 彷徨い人の狂想曲[16]
義眼
辻内 優子
pp.354-357
発行日 2004年4月10日
Published Date 2004/4/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1686100486
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4月――。とうとう,洗礼の儀式の時がやってきた。もうすぐ解剖実習が始まる。
医学部に入学して初めの2年間は教養課程で,医学に関係するような講義は一切なかった。カルテを書くときに必要だとかで,ドイツ語を履修しなければならないが,いまどきカルテをドイツ語で書いているような先生には出くわしたことがない。哲学なんて講義に出てみれば,浮世離れしたじいさんが,あさっての方向を見つめながらぶつぶつぬかしている。数学では,一生使うことのないだろう“マクローリン展開”ごときで追試にかけられる。はっきり言って,この2年間はくだらないことこの上なかった。
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