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はじめに
少子高齢化の進展により,若年看護職の労働人口の減少が懸念され,現在の看護職不足,雇用のミスマッチ,55万人ともいわれる潜在看護職の存在など,看護の担い手に関する問題は一層大きな課題となっている。
一方,看護ニーズが増大するなか,いつでも必要なときに,国民に質の高い看護が効率的に提供されることが医療の信頼を築くうえで重要となっている。こうしたなかで,限りある人的資源を有効に活用し,働く者の生きがいや健康に寄与するという視点から,年齢にかかわりなくこれまでの人生経験と看護職としてのキャリアを活かして社会貢献できる人材の活用を検討する必要がある。同時に,こうした人材の自己実現と質の良い看護を提供するという視点から看護職の自己資源(意欲や経験・能力,健康,資格など)を有効に活用・開発するための生涯学習のあり方も検討される必要がある。
本連載ではこれまで5回にわたって,求人・求職双方の調査からセカンドキャリア看護職(以下,セカンドキャリア)をめぐる雇用の状況,求人(施設)の採用方針,求職者(セカンドキャリア)の就労意識などをみてきた。
第1回では,看護職をとりまく環境の変化を,少子高齢化の進展,それに伴う医療・介護需要の増大から論じてきた。
第2回では,神奈川県ナースセンターの求人施設の調査から,20代を主力とする雇用構造を明らかにしたうえで,60歳を定年退職として位置づけ,定年退職延長には消極的な現状を確認し,施設によってはセカンドキャリアの就労は,体力的に厳しいという現実もみえてきた。
第3回では,神奈川県ナースセンターの40歳以上の看護職を対象とした求職者調査から,看護職としての実務経験年数,離職年数にはばらつきがあり,特に60歳以上では「ベテランナース」という理念型にあてはまる層はごく一部で,人生経験を仕事に反映させたいと考える層が多くを占めており,一概にセカンドキャリアの就労支援を一括りにして検討するわけにはいかないことが明らかになった。
第4回では,施設種別ごとにセカンドキャリアの採用にあたって重視する項目をみた場合,どの施設でも「長期間定着して勤務できること」を挙げており,この結果は求職活動に活かすことができる反面,セカンドキャリアの有意義性を見出しているというよりは人員不足の解消の一手段とみていることを示すものであった。医療の効率性が強く求められ,診療報酬改定のなかで,ますます看護職不足に悩まされている施設にしてみれば,定員を満たせるかどうかは死活問題であり,日本の医療現場のそのものを表わした結果ともいえる。
第5回では,前回の需要と供給のギャップの存在を,現代の競争原理,在院日数短縮などの医療制度との関係で論じ,セカンドキャリアについて議論をする意味,ならびにセカンドキャリアの人生経験の重要性について述べてきた。
以上のように,セカンドキャリアがおかれた状況は決して楽観できるものではなく,仕事と生きがい,個人の人生経験の重要性を視点に就労環境を検討する必要がある。加えて,これまでの20代を主力とする就労構造を,今までのやり方で維持するには限界があり,少子高齢社会のなかで持続可能な医療・看護の提供体制を構築することが課題となっている。それを克服するためには従来の労働市場に委ねるだけでなく,施設・地域社会・国などさまざまなレベルでセカンドキャリアの就労を支援するシステムが必要と思われる。本稿では,これまでの調査結果をふまえながらセカンドキャリアの就労支援のあり方について検討していくこととしたい。
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