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はじめに
医療における質の評価の重要性は第三者機関である財団法人日本医療機能評価機構による評価活動の普及に伴う受診病院数の増加にも表われている1)。
これらを鑑みると,診療情報提供などの情報開示やDPCなどの医療の包括評価が大きな流れとなり,医療の透明性,適切な医療の提供と医療の質の維持という議論から,実施,さらに発展期を迎えている。また,EBM(根拠に基づいた医療)の実践において,インフォームド・コンセントに基づく患者との情報共有,セカンドオピニオンの尊重,医療関連職相互間の意思の疎通と理解,クリニカルパス,クリニカルインディケーター(臨床評価指標:Clinical Indicator)が必要であるともいわれている。患者や家族自身が医療機関の選択,治療やケアの選択を行ない,患者自身が医療に対する自己責任を果たしていくためにも,適切な情報提供システムが必要となってくる。そのためには,医療の質の向上と適切な医療サービス提供を保証することにより,国民の医療に対する信頼と安心を増すことを可能としなければならない。
Donabedian2)は,医療の質を評価するには,医療の質を構造・過程・成果から判断することが妥当であると提唱した。近年,医療サービスに対する満足度(期待度と満足度)と医療サービス提供者である医療関係者の満足度で医療の質を評価するようになってきている。特に,医療の質を確保する目的は,標準的な治療やケアが適切に実施されているかを適格に評価し,実践に反映することにある。そのためにも標準化された基準が求められる。標準化とは「判断のよりどころ」「比較の基準」であり,一般化できることが前提となる。しかし,現在提供されているがん医療が標準化に則って確保されているとはいいがたい。
Donabedianが提唱した構造・過程・成果に則って評価するための手法を図13)に示した。これらは単独で用いられるというよりは,相互に連携して評価―再評価されることが必要である。診断や治療過程が妥当であったかについて審査するうえで,内部審査や同僚審査(peer review)が有効であるともいわれているが,標準化を目指すためには,評価の方法,評価対象を的確に示すことが必要である。わが国の緩和ケアにおいてもケアの質の評価に関する議論が研究や論文において活発に行なわれている。
1997(平成9)年「緩和ケア病棟承認施設におけるホスピス・緩和ケアプログラムの基準」が施行され4),診療報酬制度が見直されるなかで,経済性優先の施設の増加も否めず,質の確保と活動の評価について検討が行なわれてきた。その第一歩として,ホスピス・緩和ケアの充足度を把握するために,ホスピス・緩和ケアを利用した遺族を対象に「評価委員会発足のための事前調査」を実施することになった。この調査が1999(平成11)年「ホスピス・緩和ケア病棟の利用満足度調査(遺族調査)」であった5)。これらの結果をもとに,日本医療機能評価機構の緩和ケアモジュール(2002)6),ヨークシャーホスピスピアレビュー(2003)7),STAS(Support Team Assessment Schedule 日本語版.2004)8),緩和ケアに対する評価尺度(CES:Care Evaluation Scale. 2004)9)の共同開発・実践が行なわれてきた。
さらに,これらの質の評価検討過程において,2002(平成14)年には「緩和ケア診療加算に関する施設基準」の変更があり,緩和ケア病棟の申請を行なうときに母体となる病院が「財団法人日本医療機能評価機構などが行う医療機能評価を受けている」という条件が設置された。一方で,病院全体ではなく個々の患者と家族に提供されたケアを適切に評価するための,評価ツールが開発されている。しかし,それらが「本当に適切に評価できるのか」については,実証的な研究で検証されているものは少ない。
また,緩和ケアはがん医療の一部であり,がん対策のなかで緩和ケアの質の評価が実施されなければならない。WHOが提唱する国家的がん対策(National Cancer Control Programmes)のなかにも「“予防可能な”もしくは“回避可能な”死を招く『がん』の対策(緩和ケアまでを含む)の重要性」「エビデンスを基盤とし,既存の組織や関連各分野が協調する統合的がん対策プログラムのもと,系統的かつ段階的に推進する必要がある」との提言がある10)。すなわち,緩和ケアの質を評価するためには,がん医療対策全体の質の評価を見据えた取り組みが必要となる。
今回,緩和ケアの質をマネジメントするうえで参考となるわが国のがん対策の動向について紹介し,がん対策のなかの緩和ケアの取り組みについて述べることとする。
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