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はじめに
医療機関のなかの情報流通を電子化することで,医療の質安全保証と質経営を実現するために,オーダリングシステム・電子カルテなどに用いる看護行為マスターの開発を行なった。このマスターは4年強かけて,日本医療情報学会看護部会,同学会課題研究会「電子看護記録研究会」,文部科学研究助成事業研究メンバー,厚生労働科学研究助成事業研究メンバー,数十か所の病院看護部門の協力のもと,開発された。その間,各種学会(日本医療情報学会,日本看護科学学会,日本看護管理学会,国際看護情報学会,国際医療情報学会の看護ワークショップ)の学術集会におけるワークショップ・交流集会などで提示,意見交換,評価の活動を展開してきた。
また,2003(平成15)~2004(平成16)年にかけては,本マスターの評価作業を行なった。2003年には,全国の400床以上の病院(e-Japanに基づいて設計された医療のグランドデザインにおける電子カルテ導入病院の対象)の看護部宛に本マスターを送付し,意見を収集した。その後2004年初期に,看護系の学術学会と専門看護師(全員)・認定看護師(サンプリング)に,本マスターと調査票を送付し,同様に回答を得た。
その結果,次のような評価をいただいた。これまでこのような看護サービスの固まりの特定と,それに対する命名の全体像が可視化されていなかったこと,このような臨床用語のマスターが必要であること,想定される行為名称のかなりのものが準備されていること,用語表現に工夫がみられること,臨床の看護行為として命名がなかったものも特定され準備されていることが主要な論点といえた。また,これまでは各病院で院内標準用語を準備して院内マスターを作成してきたが,その作業の困難状況と非効率性,個々の病院が同様の作業をすることの無駄,できあがったマスターの不備などが指摘され,本マスターのように皆で標準を作って管理していくことの重要性が指摘され,開発を急いでほしいという要望も寄せられた。
専門看護師・認定看護師からは,高度な専門領域に関する用語がないことの指摘があったが,今後開発する予定であり,その他に大きな問題として具体的に指摘されたものはなかった。
これらの評価をもとに,電子的に使用・管理するためのコーディング作業に入った。その設計とコード化作業も終了し,このたび本マスターは,(財)医療情報システム開発センター(以下,MEDIS-DC)のホームページhttp://www.medis.or.jpから無償ダウンロードできる運びとなった。本マスターは紙運用の指示・記録システムをとっている病院でも,指示簿記入・看護記録の際に使用する看護行為名称として,十分利用可能である(第3階層の用語が,オーダー名称・提供した看護行為名称にあたる)。
本稿では,この「看護行為マスター」を紹介,解説する。しかしまず,本マスターの開発がかなり大変な作業であり,その開発過程が多くの現場の臨床家と研究者に支えられてきたことを述べないわけにはいかない。そこで最初に,本マスターの概要をポイント的にわかりやすく解説し,その後,開発経過を詳細に報告することにした。概要のみポイント的に知りたい方は次頁の囲みを参照いただきたい。
これまで看護がみえにくく,何をやっているのかわからないといわれてきた理由のひとつに,それを表現する言葉が十分には準備されていなかったことが指摘される。本マスターによって,看護が可視化され(どのような製品を顧客に提供しているのか),患者・家族や,他の医療者に看護を知ってもらう(看護の価値を評価してもらう)ことができたら,大変うれしいことである。なお,このように国内で開発し,無償もしくは低価格で提供し(管理必要経費のみ獲得),中央管理していくような看護行為マスターを準備するということは,国際的にも希有なる試みであることを述べておく。
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