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はじめに
前回は,日本における看護需給の状況を正確に把握することが必ずしも容易ではないこと,そのうえで,オールジャパン的観点からは日本の看護需給はそれほど大きな問題があるようには見えないが,地域レベルでみると看護マンパワーの確保に関する地域格差が存在することを指摘した。そして,多くの医療機関が看護職の不足感をもち,少しでも多くの看護職を採用したいと思っているにもかかわらず,期待される看護マンパワーの確保がなかなかうまくいかない背景には,看護マンパワーの需要サイドと供給サイドとで,有する意識や期待に少なからぬギャップが生じている可能性があることを,いくつかのデータから示した。
確かに政府の統計や予測は,看護をとりまく社会経済的諸条件とその微妙な影響を原則排除し,また看護職の就業場所や職種,就業形態などを一定の分類基準でまとめて集計するために(そうでなければ集計ができない),看護職の就労や移動に関する「実態」を的確に反映するうえでどうしても限界がある。しかしいくらそうした批判を行なっても,これまでの看護マンパワーの議論は結局,これら政府の統計や予測が根拠となってきたことは明らかであり,単純にデータの不備を批判するだけでは,必要な看護マンパワーのあり方についての意味ある議論を喚起することはできない。
そこで今回は,まず第一に,「なぜ看護マンパワーの議論が必要なのか」というごく基本的な問いを,「医療技術の進歩」「人々や社会の幸福や厚生(ウェルフェア)」というキーワードから行なってみよう。なぜならこの問いは,看護マンパワーの動向を正しく知るという点でも,また看護マンパワー確保の具体的な方策のプライオリティを決めるうえでも実はとても重要であり,こうした問いがあってはじめて,看護マンパワーの需給問題の解決にとってどんな情報が必要であり,それはどのように収集される(べき)か,ということがみえてくると思われるからである。
そして第二に,実際に看護需給に関わる情報収集として現在どのような研究がなされ,その成果がどのように看護マンパワー確保策に反映されうるかを,最近の研究例から紹介,議論してみたい。
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