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はじめに
日本看護協会は,2004(平成16)年11月に発表された「第6次看護職員需給見通し策定に当たっての基本的な考え方に関する意見」のなかで,「安全・安心の医療,納得と信頼の医療等の質の高い医療」に対する国民の期待に応えるため,(1)専門的な知識・技術を有する看護職員の育成・活用,(2)看護ニーズに適応した職員数の確保,(3)地域における訪問看護体制の整備,が必要であり,そのために,1)医療機関の看護職員配置基準を引き上げること,2)訪問看護ステーションの看護職員を確保することを提言している。
政府は,日本で必要とされる看護職員の数を,医療需要(=病床数)や保健福祉ニーズの予測と,マーケットの動向(新卒者数や離職復職者数)をもとに「看護職員需給見通し」として算定し,これが看護マンパワー問題を議論するための“唯一”の公的な根拠であった。しかし,少子高齢化を背景にした医療ニーズの変化,医療の質や安全に対する関心の高まり,さらに看護職自身の就労意識の変化といった“数値化できない”要因も含めた医療環境の変化にともない,従来の予測方法では看護マンパワー問題の根本的な議論には十分対応できないことがわかってきた。日本看護協会のステイトメントは,看護をとりまくそのような認識の変化を明確に表明したものといえる。
ではそうした環境変化をふまえ,今後看護職マンパワーはどれくらい必要なのだろうか? またその算定根拠はどこに求めればよいのだろうか? さらに,必要な看護マンパワーを具体的にどう確保するのだろうか? 残念ながら,これらの問いに対する答えは,上のステイトメントほど明快ではない。医療機関からは,看護職の確保がままならず看護業務が繁忙化し,質の高い医療サービスが提供できないという声が聞こえてくる一方で,看護職は移動や離職が多いため,全体でみれば実質的な数は不足していないという主張もある。誤解を恐れずにいえば,現在の看護マンパワーの議論は,各当事者自らの周辺で観察された情報に基づく議論の積み重ねに過ぎず,必ずしも共通の問題意識や事実認識に基づかない“あいまいさ”をもっている。しかし,少子高齢化によってケア関連職種の需給均衡が将来崩れることはほぼ間違いない以上,どこに,どんな看護職が,どれくらい必要とされているのか,それらのマンパワーを確実に確保するためには,政府や医療機関が何をすべきかについて,われわれは本質的かつ客観的な問題把握と状況認識を行なう必要がある。
そこで本稿では2回に分けて,看護マンパワーの問題をより客観的に理解する糸口を探してみたい。今回の目的は,看護需給ミスマッチの実態とその背景要因を客観的なデータから知ること,そして次回の目的は,すぐれた看護職を確保し,その質を保証するための方法(メカニズム)を探ることである。
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