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はじめに
医療業界はいままさに激変状況にある。随所で「病院の生き残りを賭ける○○セミナー」などが目に留まる。臨床現場では,医療の安全,医療人材の確保・育成,経常収支の安定など,多重な課題を抱え,悪戦苦闘している。2004(平成16)年の日本看護協会の調査1)では,新人看護職員(以下,新人)の9.3%は,過酷な現状に自信をなくし,やむなく就職1年未満で退職を余儀なくされているという問題状況が浮き彫りとなった。新人が,看護に対する希望や夢を失ってしまっている。
現在,多くの施設では,新人の教育において,プリセプター制度を実施し,新人の支援をしている。それは筆者の勤務する済生会神奈川県病院(以下,当院)も同様である。しかし昨年,早期に新人が退職したり,心理的な問題によって休職したりといったケースがみられた。新人,そして,プリセプターに何が起こっていたのだろうか。早く一人前になれるように教えこむものの,自信をなくして,元気がなくなっている新人を目の当たりにし,途方に暮れ,新人がどのような経験をしているのか,どのように伝えたらいいのか,誰に相談すればよいのか,そしてこの自分の辛さを誰がわかってくれるのか悩んでいる,それがプリセプターの現実ではないだろうか。
2004年,医師の臨床研修が制度化された。これによって多くの臨床研修病院は,北米式教育方法である「屋根瓦式教育」(multi-layered education)を取り入れた。それは,教えられた者が,次の者を教えていくといったチーム指導体制であり,医師の臨床教育としては画期的なものである。看護の臨床教育は,従来から,「See it. Do it. Teach it.」であり,「学ぶこと」「教えること」という関わりをとおし,日々伝承され,かつ創られてきた。しかしいま,大きな課題にぶつかっている。前述のプリセプターの疲弊にみられるように,「教えられた者」が「教えること」を通して,「学ぶこと」を見失ってしまっているからだ。まずはチーム全員が,学ぶために互いに教え合うという原点に返ろうと思った。そのためには,教育支援組織を再編し,学びと教えの連鎖がみえ,そしてそのつながりがより厚くなるような屋根瓦式教育の充実を図ることが重要だと考えた。
そこで本稿では,当院における2005(平成17)年度新人教育における屋根瓦式教育の具体的展開について報告したい。
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