論説
日本人の“病い観”—看護の対象者となる人たちを理解するために
関谷 由香里
1
1日本赤十字広島看護大学
pp.159-166
発行日 2000年4月15日
Published Date 2000/4/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1681900552
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はじめに
人間誰しも必ず経験する“病い”とは,一体何なのであろうか。用語としての“病い”とは医療人類学で「病気を文化的概念としての“illness”と病理的な概念としての“disease”とに区別」(波平,1991,p. 225)するところの前者を指す。つまり“病い”(illness)とは,病気(disease)のように医師の診断によって病名がつけられた状態をいうのではなくて,個人やその個人が属する社会の歴史的・社会的・文化的背景のなかで,その個人が主観的にとらえた,あるいはその社会の成員たちがとらえた,その個人に見られる心身の不調をいうのである。換言すれば“病い”とは,歴史的・社会的・文化的背景のなかで,意味づけされた“病い”のことを指し,それは全く個別にあらわれるのである。本小論では,この意味で“病い”ということばを用いることとする。
ところで,“病い”もしくは病気とは何かという先の問いに対して,人類の歴史とほぼ同様の長い歴史をもつ現代の医学は,それに容易に答えることができないようである(中川,1994)。けれども,今日のような科学的・生物機械論的な方法をとる以前の医学においては,“病い”または病気が,それぞれの時代的・社会的・文化的背景のなかで定義されてきた。
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