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はじめに
「ケアの意味を見つめる事例研究」(以下,本事例研究)は,看護学における知の蓄積と継承を目的としているため,本章では,学問の知を創る研究方法とするために必要な学術性についての検討を行ないたい。事例研究はしばしば,科学的な研究方法ではないとの議論がされている。特に,私たちの研究のように1つの看護実践について検討を行なうことに対しては「一事例で一般化可能性はあるのか」,実践者が過去の実践を思い出しながら語る内容を素材とすることに対しては「データの信頼性や再現性はどう考えるのか」「客観性はあるのか」,またケアの対象者の特性や行なわれている実践自体に一見目新しさがないことも多く,「研究の新規性はどこにあるのか」といった疑念を投げかけられることもある。これらの点について,下記の4点から検討を行ないたい。
1.本事例研究で扱う知の種類とその性質
2.自分たちが明らかにしたい知を明らかにできる研究方法か(内的妥当性Internal validity,信用性Credibility)
3.明らかにした知を次に使える研究方法か(外的妥当性External validity,転用可能性Transferability)
4.研究としての独創性Originality,新規性Noveltyを担保できる研究方法か
なお私たちは,本事例研究の学術性を考える上では,「明らかにする知が,人間の観察とは独立に(外に)存在する」と考える実証主義の伝統に基づく学術的厳密性評価の視点と枠組みを可能な限り踏まえながら,その評価のための具体的な指標に関しては,看護の知に関する事例研究の特徴に基づいた考え方を主張したいと考えている。看護学は多様な知を必要とする学問領域であり,研究方法も多様である。この中で,質的研究や事例研究の背景のみに基づいた主張をしても,実証主義者の理解を得られず,建設的とはいえないだろう(宮田,甲斐,2006)。実証主義の立場でも了解可能,連結可能になるように議論していきたい。
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