特別記事
「転用可能性(transferability)」再考—「ケアの意味を見つめる事例研究」のために(前編)
家髙 洋
1
1東北医科薬科大学教養教育センター哲学教室
pp.312-318
発行日 2019年7月15日
Published Date 2019/7/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1681201650
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1.問題の所在
「転用可能性」と「洞察(insight)」
「ケアの意味を見つめる事例研究」の目的は,「共有・転用可能な,看護実践の質を向上させるための知の構築」であるが(山本,2018,p.411),取り上げられる事例は,個別の事例である。というのは,「複数事例ではなく個別の事例で,個別性の高い文脈の詳細を伝えて初めて,『ああなるほど,そういう看護の仕方もあるのか!』というような共鳴や触発を実践者に起こす場合も多いように思われた。看護のような対人の実践に関しては,個別性の高い文脈との相互作用や応答が必須であり,その過程を示す上で,複数事例の統合には限界があると感じた」からである(山本,2018,p.405)。
この場合,個別の事例から得られた知見が,その事例だけでなく,他のさまざまな事例にどのようにしてあてはまるのかという問題が生じる。言うまでもなく,(看護のみならず)ケアのそれぞれの実践は個別性が非常に高い場合が多いので,個別の事例で得られた知見は,そのままでは他のさまざまな事例にあてはめることは困難である。いわゆる「一般化可能性」が「ケアの意味を見つめる事例研究」において問題になる。
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