- 文献概要
仙台をあとにして深夜の国道をヂープが走る。とぶように走るのももどかしく車内の人は時計をにらむ。早く,早く,そして車は未明,遂にとある病院にすべりこみ,ころげるようにとび出した人の手から貴重な血清はまちかねていた当直医師の手にわたされ直ちに病人の腕に—こうして,落磐のためにけがをして丹毒になつた青年坑夫が,あと数時間後には断たれなければならなかつた生命が救われた。知らせでかけつけた母親が,狂喜して泣きくずれたのも無理はない。これは福島県下でのはなし。そして其の後間もなく,同じようなケースが,京浜国道をとぶ「愛のパトロールカー」と題して東京の新聞に話題をまいた。と思つたら,更にひきつづいて今度は,長野県に潜涵病に苦しむ1人の熟練潜水夫の生命を助けるべく,日本にはまだない人工的に気圧を変化きせて徐々にこの病気を直す特別装置をもつた潜涵病治療船が,米軍の好意で東京からはるばる廻航され,直ちに本人の治療にとりかかつた模様の実況放送があつた。
僅か1週間たらずの間におこつたこの三つの事件は,最近血生ぐさい争いに世界の人々が胸を痛めている時,その同じ地球の他の一方で,人の生命の尊さが,凡ての人力の集結によつてまもりつづけられている美しい人類愛の実在をしり,心あたたまる思いが胸にせまると同時に,ホツと息をつき,救われた感を深くした。
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