焦点 睡眠の看護に関する研究
周辺領域での研究
睡眠の"精神生理"
平井 富雄
1
1東京大学医学部付属病院分院・神経科
pp.364-368
発行日 1974年10月15日
Published Date 1974/10/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1681200405
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はじめに
睡眠の生理学的研究に初めて道を開いたのは,スイスの生理学者W. R. Hess(1925)である。それまでも,前世紀の終わりから,今世紀初頭にかけて,多くの学者の科学的,実証的な研究が行なわれたが(Donders-1854,Tarchanoff-1894,Picron-1913,Bancraft-1933など),主に睡眠現象の観察にとどまり,睡眠中に脳の働きが覚醒している時と,どう違うのかについては,まだ明らかにされていなかった。
ただこの間において,注目すべき病気が流行し,その症状や治療の経過と,不幸にしてこの病いに倒れた人の脳解剖所見から,睡眠の脳中枢を推定した臨床医学者がいた。この病気が,<終日うとうとねむっている>症状を長くにわたって呈する"嗜眠性脳炎"であり,この学者がC. Economo(1917)であった。彼は死亡した患者の脳の脳室を囲む部分に,比較的限局した病巣のあることを発見した。そして,臨床症状が睡眠とよく似ているのを確かめて,睡眠をつかさどる中枢が大脳の脳室を囲む神経細胞の集団(これを灰白質という)にあることを,大胆に仮説として提唱した。この部分は,今日の解剖学でいう間脳にほぼ相当する。
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