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はじめに
新薬と標準薬の効果の比較,ある処理(例えば手術や教育など)の有無による健康への影響の比較など,介入群とコントロール群に分けて,2グループ間での比較を行なう研究は極めて多いと考えられます。特に統計学的分析でよく行なわれる方法は,ある変数の平均値について,2グループ間で違いがあるといえるのかを決めるための検定です。もう少し正確に言うと,調査などで得られたデータをもとにして,帰無仮説「ある変数について2グループ間で母集団の母平均に差はない(2グループの母平均は等しい)」を検定することです。次のような例題をもとに,この検定方法について考えてみたいと思います。
【例題】生活習慣調査を行ない,高塩分の食事をする女性40名(Aグループ)と低塩分の食事をする女性50名(Bグループ)の血圧を調べたとします。収縮期血圧について,表1のような結果が得られたとします。ただし,表1の標準偏差は不偏分散の平方根とします。
表1に示した結果から,高塩分食事グループは血圧が低塩分食事グループよりも高いと言えるのでしょうか。
このような問に答えるのが,「独立2群の母平均値の差の検定」と言われる検定方法です。ある変数についての2グループの母平均値の差の検定は,極めてよく用いられている方法ですが,実際の検定では,2グループの母分散が,(1)等しい場合(等分散の場合),(2)等しくない場合(不等分散の場合)で,用いる計算方法が異なっています。
(1)の等分散の場合とは,図1で示したように,変数の分布の形状は2つのグループで同一なものと考えられています。ただし,2つのグループAとBでは,母平均値に違いがあり,そのため分布全体の位置がAに比べてBでは,右側に移動しているという状態になっています。したがって,分布の形状は同じなので,分散は2つのグループでは同一,つまり等しいものと仮定されています。このように,一方のグループが他方に比べて全体に一定方向に偏った状態についての検定方法が,等分散の場合の母平均値の差の検定になります。
等分散の場合とは異なり,図2に示したように不等分散の場合の検定は,2つのグループの母平均値μAとμBに違いがあるだけではなく,各グループの分布の母分散σ2Aとσ2Bにも違いがある場合です。したがってこのような場合には,2つのグループの分布は位置も形状も異なることになります。このような2グループの比較については,分散が異なるということは分布が異なることを意味しますので,2つの母平均値の比較に意味があるのかという議論もあります。しかし,明らかに2グループの分布が異なっている不等分散のような場合でも,2グループの母平均値を比べたいという要望はありえますので,ここでは後述するように「Welchの方法」を説明したいと思います。
以下に,いくつかの検定方法を解説したいと思います。
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