- 有料閲覧
- 文献概要
- 1ページ目
- 参考文献
- サイト内被引用
承前と今回の内容
本連載において,まず,質的研究の主題として「意味」を,そしてその前提として「言語」を指摘した(第1・2回)。「言語」は,世界をそのまま反映していないが,世界の見方を決定しているのでもなく,研究や実践等に関するコミュニケーションの中で各人の理解を問い直し,理解の幅を拡げる機縁となるものである〔このような「言語」には,「実在論vs.社会構成主義(あるいは解釈主義)」などに代表される「認識論的な立場の対立」に関する包括的な理解と調停の可能性が含まれている。このことは連載第6回で説明するが,このような観点においても「言語」は質的研究の前提とみなされるであろう〕。
前回(第3回)では,ドイツの哲学者ガダマーの近代科学批判を紹介し,検討した。近代科学の特徴は「方法」の優位に存している。あらゆる事象に普遍的な方法をあてはめ,そこから生みだされる科学的な真理のみが妥当と考えるのは,近代科学の「偏見」であるとガダマーは主張する。物理学等の自然科学にあてはまる方法は,人間に関する知には適していないことを,「他者の理解」に即して説明した。
今回もガダマーの近代科学批判の続きであり,対人的な実践に資する知を考察する。ガダマーはアリストテレスのプロネーシスを復権させたが,我々もガダマーの所説に基づいて,看護実践にかかわる知の基本的な枠組みを明らかにしたい。結論を先に述べれば,看護実践にかかわる知(より広義には,看護研究における知)には,一般化可能性や共通性をめざす方向と,(個々のケース等の)個別の状況を詳述し検討する方向という2つの別種の方向が存しているということである。
今回の論述は,次のように進められる。まず質的研究の真理性に関する議論を確認する(第1節)。次に,(看護における質的研究がかかわっている)実践についてのアリストテレス/ガダマーの所説を紹介する(第2節)。そして,看護研究における2つの知を概括し(第3節),問題点を指摘する(第4節)。なお,個別の状況にかかわる知への具体的なアプローチに関しては,次回(第5回)の連載で取り扱う。
Copyright © 2013, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.