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はじめに
臨床において日々看護を実践している看護職の,「看護研究」という言葉に対する印象とは,どのようなものであろうか。EBP(evidence-based practice)という言葉は広く知られており,ベッドサイドで担当の患者に対し安心,安全な,よりよいケアを提供するためにも,エビデンスに基づく看護は重要であり,そのために看護研究が大切なのだということは,看護職なら誰もが理解していることだろう。しかし,それでなくても多重業務で手いっぱい,研究にまで手を広げるのはちょっと厳しいというのが,多くの看護職の本音であるかもしれない。
臨地実習において患者のためのケアを計画する際,学生が教員のもっているであろう正解をなんとか探ろうとする場面にしばしば遭遇する。筆者はそのようなとき,「教員が正解をもっているわけではなく,答えがあるとするなら,それは患者さんの中にある」と返答し,患者とのかかわりの中からそれを見いだすよう促す。同様に,よりよい看護実践のためのよりよい答えはベッドサイドにあり,それを科学的に探索し明らかにするのが看護研究といえるのではないかと考える。研究プロセスは問題解決過程や看護過程と類似しているが,さまざまな科学的研究法を強力に応用する必要がある(Burns & Grove/黒田,中木,小田,逸見監訳,2007,p.24)という点において相違がある。しかし,実践の中で感じる現実的な疑問に答えるために,臨床の看護職が研究に携わるのは自然で理に適ったことである。そして開発されたエビデンスを多くの看護職が活用し,ケアの質を向上させていくことが看護研究の本来の目的と考える。
看護実践の最善のエビデンスがベッドサイドにあるのであれば,研究の種も臨床の看護職の日々の疑問の中にあるということができるだろう。「患者さんのあのつらそうな症状をなんとか改善できないか」「もっと効果的なケアの方法はないか」といった日常の実践の中に芽生えた小さな研究の種は,熟成するまでしっかり育てられると,実践に即した,活用される研究成果という実を結ぶ。
では,研究の種が実を結ぶまでしっかり育てるとはどういうことであろうか。日本国内の多くの病院の看護部は積極的に看護研究に取り組んでおり,日本には,臨床で研究を推進し得る土壌は広く存在するようである。しかしそれを実現するには,現状ではなかなか難しい。なぜだろうか。
EBPの定着を妨げるバリアには,研究のクオリティと性質,看護職の特性,組織的な要因がある(Polit & Beck, 2012, p.29)。同様に,臨床で行なわれる看護研究にも,その研究法が臨床の状況や研究疑問に適したものかどうかという,種を育てる方法の問題や,種を育てる人としての看護職の力量の問題,あるいは研究の種をまく土壌としての組織の問題も存在する可能性がある。臨床にまかれた種が結実するまでには多くの壁があり,発芽しないままの種や,発芽しても途中で枯れてしまうものもあるだろう。臨床看護師の看護研究の多くは,所属施設内の発表会や学会において発表されることが多く,論文として学会誌に投稿されるものはわずかである。しかし,論文という形にならなければ,どこかの病院の看護職によってオンラインデータベースで検索されることもなく,閲覧された研究成果を活用して誰かのケアにいかされることもない。つまり,努力して収集したデータも,時間をかけた分析も,EBPに寄与しないということになる。
以下に,種が最後までしっかりと育てられ結実した成果,つまり臨床の看護職が学会誌に発表した論文の傾向と特徴を考えてみたい。
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