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はじめに
本稿で論じる課題と範囲
昨今,メタ・シンセシスやメタ・スタディなど,質的研究の結果を統合し看護学の知を再構成しようとする動きが活発化している。“Meta-synthesis” and “nursing”をキーワードに1997~2011年で検索すると,PubMedでは74件,CINAHL with Full Textでは48件がヒットし,そのうちPubMedでは49件,CINAHL with Full Textでは33件が過去5年間に発表されたものだった。日本国内においては,医中誌Web Ver.5で“質的研究統合”や“メタ・シンセシス”をキーワードにして検索すると,2011年現在,ヒット数は1件(これは後に述べる本誌『看護研究』のBeck博士の論文を掲載した44巻4号)であるが,書籍については,『研究デザイン─質的・量的・そしてミックス法』(日本看護協会出版会,2003/2007),『人間科学のための混合研究法─質的・量的アプローチをつなぐ研究デザイン』(北大路書房,2007/2010),『質的研究と量的研究のエビデンスの統合』(医学書院,2007/2009),『質的研究のメタスタディ実践ガイド』(医学書院,2001/2010)等,2007年以降,研究の混合法に関する翻訳書が続々と出版されていることからも,わが国では質的研究の統合への関心が高まりつつあることがうかがえる。
昨年8月,私たちは,第37回一般社団法人日本看護研究学会学術集会で,C.T. Beck博士による招聘講演を拝聴する機会を得た。また招聘講演に先立ち,本誌『看護研究』(2011年44巻4号・増刊号)の焦点「C.T. Beck氏の研究から考える─看護における研究と方法」を読み,Beck博士がこれまで取り組んできた出産後うつ状態や心的外傷性出産に関する膨大な研究の成果とその方法論を知り,おおいに刺激を受けた。なかでも,博士が本誌のために寄稿した巻頭論文「Meta-synthesis : Helping qualitative research take its rightful place in the hierarchy of evidence」には,質的研究をエビデンス階層のふさわしいレベルに位置づけ看護学の知を一層豊かに築き上げるためには,質的研究を解釈的に統合するメタ・シンセシスという方法が有効であるということが,博士自身が行なったメタ・シンセシスの研究例と共に明快に説明されており,大変に勉強になった。
と同時に,私たちは,この論文中でBeck博士が引用している論文や質的研究の統合に関するいくつかの論著を読み進めるにつれ,質的研究統合と文献検討,二次分析,質的研究内での結果の統合との違いや,質的研究統合とメタ・シンセシス,メタ・サマリー,メタ・スタディとの関係についてわかりにくさも感じた。冒頭に示した質的研究統合に関する文献の中にも,同じ単語が別の意味で用いられている部分が散見され,読めば読むほど混乱が増した。
あまりに複雑で理論的重複の多い方法論は扱いづらく,結局のところ研究実践に耐えられそうにない。質的研究統合を進めていくには,質的研究を統合することの目的や方法について再考し,絡み合った糸を解きほぐす作業が不可欠であると考えた。そこで本稿では,質的研究の統合に関する多数の研究や解説を発表している米国の看護学者として,Beck博士と,もう1人,Sandelowski博士の説明を対比しながら,質的研究の統合の目的や方法について私たちが理解したことを報告したい。ただし,彼女たちが手がけた論文の数は膨大で内容も複雑であり,私たちは質的研究統合の全容を網羅的に把握して解説する段階にまでは至っていない。今回は,前半ではBeck博士の論文(Beck, 2011a),後半ではSandelowaki博士らの著書(Sandelowaki & Barroso, 2007)を手がかりにしながら,質的研究の統合の中でも,メタ・シンセシスに焦点を当てて学び深めたことをお伝えすることとしたい。
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