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はじめに
メタ統合(meta-synthesis)とは,複数の質的な一次研究(primary qualitative research)の結果(findings)を統合して,ある目的について,新たな,かつ拡大された理解をもたらす一連の方法論的アプローチを意味する。その起源は社会学にあり,社会学の理論化に向けて系統的に知見を記述するアプローチとして,「メタ社会学」の用語が用いられたことに由来する(Paterson, Thorne, Canam, & Jillings, 2001a)。
看護に関する一群の質的研究の結果を1つの理論,モデル,あるいは記述に統合することについて,初めて質的メタ分析「qualitative meta-analysis」の用語を用いたのは,SternとHarris(1985)であった(Patersonら,2001a)。質的研究結果の統合に関心をもち,取り組む看護研究者はその後も続いたが,有効で他者に伝達できるだけの系統立った統合の方法論の開発という点で大きな課題が残されていた(Sandelowski, Docherty, & Emden, 1997)。
そのようななかで,Patersonと同僚たちは,これまで質的研究結果の統合に取り組んできた他の研究者たちの経験と自らの経験を吟味し,それらを体系的に位置づけながら,質的研究結果を統合するための系統的な1つの研究方法論として,メタスタディ「meta-study」を創出し,大きな功績をあげた。
Patersonらの提示したメタスタディは,研究成果を体系的に集めてまとめるレビューや,二次分析として知見を平均化するメタアナリシスとは対照的に,一群の質的研究の結果を批判的かつ創造的に解釈することによって,研究事象のなかにみえる新たな,かつ拡大された理解を導き出す方法論である。つまり,一群の質的研究の結果から,その分野における探求の力学を探り,私たちが理解していると思い込んでいる内容について問いを投げかけ,まだ検討を加えていない部分を明白にすることをめざしている(Paterson, 2005)。これまで,質的研究の結果を積み重ね,そこから理論を構築することは困難であるとみなされてきた傾向があった(Paterson, 2005)。しかしメタ統合の方法論の創出により,質的研究の蓄積が,その特定分野の知識体系の構築に貢献する道筋が明示された。
筆者がPatersonらによるメタスタディと出会ったのは,所属大学の大講座(地域看護学,訪問看護学,保健学)内の教員勉強会において,Patersonらによるメタスタディの著書,すなわち『Meta-Study of Qualitative Health Research : A Practical Guide to Meta-Analysis and Meta-Synthesis』(2001a)を輪読しはじめたことによる。個々の質的研究の結果の集積を超えて,それらの本質を表わす統合概念を創出するというメタスタディの考えに共感するとともに,実際にこのメタスタディに取り組んでみたいと思うようになった。折しも,千葉大学21世紀COEプログラム「日本文化型看護学の創出・国際発信拠点─実践知に基づく看護学の確立と展開」(2003~2007年度)に採択された時期と重なり,本格的に研究プロジェクトを組織し,それぞれのプロジェクトで複数のメタ統合に取り組むことになった。
メタスタディは,共同研究メンバーによる絶え間ない協議を経ながら,目的とする本質を表わす統合概念を創出する。どのような研究過程を踏むのか,研究としての質を担保するために何が重要になるのか,どのような問題に対処すべきであるのか,といった具体的な指南をPatersonらによる著書から得ながら進めた。また2005(平成17)年に,千葉大学21世紀プログラム第2回国際シンポジウムに,Patersonを招聘する機会を得て,特別講義やワークショップを受けるなかで,メタスタディについて理解を深めることができた。
本稿では,Patersonらによるメタスタディの著書および研究に基づいて,質的研究のメタ統合の方法について,その学的基盤,プロセス,成果と課題を中心に解説する。
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