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はじめに
JRC─NQRの発足から今日までの歩み
2007年の秋,当時,日本赤十字看護大学大学院修士課程2年だった阿部利恵さんが私の研究室を訪れ,「同級生とサブストラクションについて勉強会をする予定なので,先生にも来てほしい」と私を誘った。
ちょうどそのとき私は,のちに『質的研究の実践と評価のためのサブストラクション』(医学書院,2009)の共著者となる北素子さんと勉強会をしている最中であった。「ぜひ。せっかくなので北さんと谷津とでうかがいましょう」とその場で決まり,ほどなくしてサブストラクションの勉強会が行なわれた。サブストラクションを議論の出発点にして看護学における研究や教育,大学院の存在意味などに論点が発展し,小さな集まりではあったが普段の授業では味わいにくい知的興奮がみなぎる場であった。
阿部さんは修士論文で量的研究に取り組んだが,そこで明らかになった現象を質的研究によって掘り下げたいと考え,修士課程修了後,そのまま本学の博士後期課程に進学した。阿部さんの修士時代の同期生で,同じく博士課程に進学した人に深谷基裕さんもいた。深谷さんは修士論文で取り組んだ質的研究を博士課程で一層深める方向で研究したいと考えていた。その頃には,阿部さんの専門領域である成人看護学の教授であった中木高夫先生も含めて,私たちはすっかり顔なじみになっていた。そして,2008年春,誰が言い出すともなく,「質的研究について勉強する会をつくろう。日赤看護大の質的研究勉強会だから,名前はJapanese Red Cross─Nursing Qualitative Researchで,頭文字をとってJRC─NQRと呼ぼう」と決まった。
2008年5月以降,月1回のペースで(途中で納涼会などの息抜きも挟まれるが)JRC─NQRは続き,2012年3月の勉強会をもって早や41回を数えた。JRC─NQRの企画・運営にかかわるコアメンバーも,阿部さん,深谷さん,中木先生,谷津に加え,永田明さん,北さん,住谷ゆかりさん,千葉邦子さん,濱田真由美さんのほか,言語学的アドバイザーとして東北大学大学院准教授の江藤裕之先生にも加わっていただき,強固な基盤が築かれつつある。2005年度に本学で修士号を取得された永田さんは,コンピュータやカメラ技術に明るい「工学男子」でもあるため,永田さんをコアメンバーにお迎えした2009年3月にはJRC─NQRのホームページが立ち上がり,機動力が強化された。
2010年9月30日には,JRC─NQRのコアメンバーが中心となり,「日本質的看護研究学会」が発足した。研究方法のうち質的研究に限定した看護学研究を取り扱う本学会は,学会につきものの「学術集会」を開催しない,会費制度は当面とらずに登録をするだけで会員となれる,学術誌は冊子体ではなく電子媒体とする,査読対象となる投稿論文の文字制限を可能な限り撤廃する,といった多くのユニークな特徴をもつ。本学会の論文投稿査読システムは2012年春から開始される予定である。
このように,JRC─NQR発足後4年の間に,活動のかたちも機能もさまざまに変化を遂げた。しかし,その活動の原動力は全く変化していない。つまり,それは「看護学を学び実践するものとして質的研究に関する学びを深めたい」という切なる思いであり,もっともっと知りたい! という知的な渇望感である。参加者は,それぞれに超多忙な毎日を送る学生と教員等であるにもかかわらず,次はこれを発表したい,知りたい,意見がほしいと,自分の知的な欲求を,自ら汗を流して満たすことに余念がない。
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