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はじめに
本稿は,千葉大学大学院看護学研究科成人看護学教育研究分野(以下,当該分野)の博士論文作成過程で重視していることや,課題となっていることを,筆者なりの視点で論考し,公表することを通じて内外からの批判を受け,研究の発展に寄与することをねらいとしている。本稿では,蓄積された看護実践モデルや看護指針の開発の道筋,そしてその効果と課題を示す。このことは,看護実践の本質を探究する研究者,実践者にとって,看護を考えるための糸口を提供するという点において意義があると考える。
看護研究に関連する多くの書籍をみると,研究課題を明確にするために,看護実践が行なわれる臨床現場に潜む問題点を浮き彫りにし,研究として取り組むことが可能な研究疑問や研究課題を記述する方法を紹介している。看護研究の初学者は,看護研究が看護特有の領域や特徴的な問題意識をもつことが重要であることを学ばなければならないとしている。しかしながら,臨床現場に潜む問題点や実際に行なわれている看護実践の現象は複雑であり,研究課題として焦点化されると,問題の側面のごく一部しか明らかにされていないため,研究成果が導かれたとしても,研究成果を臨床の看護実践に活用するためには多面的な研究成果が必要となり,関連研究の蓄積が不可欠である。
さらに,明確な視点や枠組みがなければ,複雑な構造をもつ看護実践を人に伝えることは困難である。「よりよい看護」と考えるものを他者に伝えることは難しい。そのため,看護理論,看護モデル,看護実践モデルなどが看護学の理論的な構造を示し,看護の対象,看護の目的,看護の方法や成果についての方向性を示す上で有用であることが示され,日本においても看護理論を看護過程に活用する方法を通じて,看護理論,看護実践モデルが実践のなかで活用され,看護基礎教育課程における教育にも用いられている。
その一方で,それまで開発され,検証されてきた看護理論や,看護モデル,看護実践モデルによって看護の構造を広範囲に示すだけではなく,その国の文化的背景や個々人の状況に応じた,現実的で具体性のある看護実践モデルの開発や看護実践の指針となるものが必要ではないかと考えられている。なぜなら,医療・看護を必要としている対象者の年齢構成,医療・看護の領域において要求される安心,安全に対する人々の意識,医療における人権の課題は変化し続け,社会の変化に応じた看護実践とそれを支えるための根拠となる考え方の基盤をもつ必要があるからである。
当該分野での修士論文は,「がん,急性期,循環器領域の成人・老年期にある人々」を対象とし,それらの対象を理解することをめざし,対象の体験している現象の本質を明らかにする研究に取り組んでいる。博士論文では,修士論文を土台として対象のニーズや課題に即した看護実践モデル,看護実践指針の開発とそのモデルの効果,有用性の検討を行なっている。
本稿では,その考え方やプロセスの一端を紹介していきたい。
博士論文作成プロセスは学生の研究テーマや,学生の過去の研究に対する取り組みの経験によって大きく異なるため,研究方法のある種のパターンを明示することは慎重に行なわれるべきであると思う。なぜなら,新たに博士論文作成に取り組む者や初学者がその方法を形だけ取り入れ,模倣してしまうことを危惧するからである。研究方法を探求するプロセスは非常に苦しく,思考錯誤が繰り返されるため,見通しを早く立てたいという研究者のニーズが少なからずあり,過去の研究テーマや研究方法に類似した方法を自分の研究に採用してしまうことは経験上想像できる。そのため本稿を読んでくださる方は,各項に関連する文献を検討し,本稿で示す研究方法について批判的に吟味していただきたいと思う。そのことにより,創造的な発想を含んだ意義ある研究論文が生み出されることにつながると考える。
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