焦点 看護学研究発展の軌跡─研究方法論に着眼して
精神障害をもつ人の体験世界の理解に基づく看護研究方法の模索
岩﨑 弥生
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1千葉大学大学院看護学研究科精神看護学教育研究分野
キーワード:
主観的世界の理解
,
全体像の理解
,
現実世界の文脈
,
インタビュー
,
参与観察
Keyword:
主観的世界の理解
,
全体像の理解
,
現実世界の文脈
,
インタビュー
,
参与観察
pp.474-481
発行日 2011年8月15日
Published Date 2011/8/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1681100560
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看護研究ならではのチャレンジ
看護は,人間および看護現象が内包する多様性・多元性・多層性に忠実であろうとし,その上で病気や障害をもつ個々人の全体性の把握と理解に基づき,ケアを提供しようとする実践の科学である。病気や障害をもつ人,1人ひとりの現実世界での生活(命や生きることも含め)の理解には,いわゆる「科学的」なアプローチのみでは限界があるだろう。自然科学を基盤としたアプローチは,分析・予測・一般化などの側面では優れているにしても,文脈依存的で多層的な個々人の現実を掬い取ることはできない。看護学が1人ひとりの人間を中心に据えた実践の学問であるという前提に立つと,看護研究においては,普遍性だけではなく個別性,再現性だけではなく一回性,客観性だけではなく主観性といった観点から現象に迫り,普遍と個別,再現性と一回性,客観と主観といった両立し得ない対極を統合できるような方法論が必要ともいえる。
そうした方法論への第一歩として,われわれの研究室では,まずは,個別性・一回性・主観性に着目し,病気になったあるいは障害を負うことになった「他ならぬ私」の主観的世界を理解する方法について模索してきた。厳密に統制された環境下で行なわれる実験研究や,現象を測定可能な数値に置き換えて行なわれる量的研究などは,個々人がもっている多様な性質を捨象する方向で進められる。では,「他ならぬ私」の現実を理解し,それについて文脈も含めてできるだけ忠実に丸ごと記述する方法として,どのようなアプローチがあるのか。
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