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はじめに
本稿の目的
我々は,本誌42巻7号の焦点論文「ストレス対処力SOC(sense of coherence)の概念と定義」(山崎,2009,pp.479-503)等において,SOCとは,ストレッサーへの直面が日常的にある生活世界や人生世界に対する把握可能感と処理可能感と有意味感とからなる感覚のこと,包括的な表現を使えば,世界は首尾一貫している,あるいは腑に落ちるという感覚のことであると述べた。そうした感覚は,生活世界や人生世界に対するその人の現実の見方・向き合い方・関わり方に基づく感覚であり,単なる主観や思い込みではないとも述べた。さらに我々は,このようなSOCが機能的には人の生活や人生において,絶えずもたらされるストレッサーに上手に対処することによって,健康を守るばかりか,ストレッサーを成長の糧にさえ変えて,明るく元気に生きていくことを可能にするストレス対処力として極めて重要な役割を果たしているものであると述べた。
このように,人が生きていく上で欠かせない大事なストレス対処力SOCの形成や向上を促進する介入方策の開発をめざし,しかも,そのなかでも特に,形成期から成熟期に入るとみなされ,一部ではそれ以降は固定化するとすらいわれている30歳代以降のSOCの向上や回復を図る介入方策について,いろいろ考えてみたいというのが本稿の目的である。乳幼児期から20代の成人初期までにおけるSOCの発達・形成に関する理論と研究については,上述した本誌42巻7号焦点にある坂野論文(坂野,2009,pp.539-547)を参照されたい。
SOCを高める介入方策の探求や開発にとって,一番のヒントは介入研究やそのレビューにあるが,SOCの維持・向上・低下といった変化を結果変数の位置において,その要因変数の探索・検討を目的とした研究にもヒントがあることも考慮される必要がある。准実験計画的な縦断研究はもちろん,因果関係を探る上では弱いが横断研究の結果も参考になるものと思われ,本稿では取り上げた。
さらに,患者等の抱える問題を,SOCの概念や健康生成モデルに照らして記述し把握して,それに働きかける実践等を考察あるいは示唆している質的研究も考慮に値すると思われたので,本稿で取り上げた。
また,SOC研究にせよ縦断研究にせよ,いろいろなデザインの研究も,システマティックな文献レビューはまだできておらず,ここでは,たまたま手元にあった文献を紹介させていただくにとどめたことを,あらかじめお断りするとともに,深くお詫びしておきたい。
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