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先端医療の発展のなかで生じている問題
予防医学の進歩は,疾病の発生や悪化を未然に防ぐことを可能とした一方で,人々はこれまでに経験していない病いと向き合うことを余儀なくされるようになった。すなわち,早期がんの発見や遺伝子疾患の診断などであり,発症するのか,治療が必要なのか,疾病なのかどうかさえわからない不確実な状況を生きる人々が増加している。
未破裂脳動脈瘤(unruptured intracranial aneurysms ; UIAs)の発見も,その1つである。脳ドックの普及や画像診断技術の進歩により,集団検診や,めまい・頭痛などを主訴に受診した患者にUIAsが偶発的に発見される機会が増えている。しかしながら,UIAsは年間破裂率が1%程度と低いことが明らかになっており(Juvela, Porras, & Poussa, 2008 ; Yonekura, 2004),予防的手術を行なわずに経過観察を選択する人(以下,UIAs患者)も少なくない。UIAsの診断においては,これまで「健康だ」と思っていた人が,いつ破裂するかわからない爆弾を抱えていることを宣告され,後遺症や生命の危険を伴う予防的手術を選択するかどうかなど,さまざまな意思決定の必要性や将来への不安をつきつけられることが推察される。しかしながら,無症状であるがゆえに日常生活上の支援を必要としないことや,手術を行なわない場合の医療機関との関わりは,数か月に1度の定期外来受診のみとなるため,UIAs患者の体験はこれまで十分に把握されてきたとはいいがたい。これらは,画像診断技術の進歩や,低侵襲である血管内治療などの華々しい先端医療の発展のなかで見落とされてきた問題でもあった。
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