書評
看護・福祉への現象学応用の可能性を追究
村上 靖彦
1
1大阪大学大学院人間科学研究科
pp.156
発行日 2010年4月15日
Published Date 2010/4/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1681100433
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本書は,前半で支援業務そのものの基礎論,後半で支援業務について現象学的質的研究を行なう際の手引きと他の質的研究法との関係を議論した,支援業務とその研究のための教科書である。
本書前半は,看護や福祉の支援業務を行なう人たちのための心構えを説く。死や障害に直面したクライアントに残された可能性を引き受け,彼(彼女)が生を有意義に全うすることをいかにして支えるかが支援業務の本質であるとする(もちろん「有意義な生」の追求は暴力にもなりうるが)。その際,著者は「実存」を強調する。実存が必ずしも現象学的ではない概念であるのは事実である。とはいえこれは,方法上の必然性をもつ。フッサール現象学は認識の理論として成立したのだが,支援業務に応用される場合には,認識とは別の事象をつかむための方法になるからである。まさに本書が「実存」と呼んだ何かが,看護や福祉の現場では焦点になる。本書における現象学の説明は,違和感の残るものであり,誤解を招く危険があるものだが,フッサールを読み替えてゆく作業に現象学の可能性を託すことは有益だと思われる。
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