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はじめに
医療の現場では,慢性疾患や後遺症などの健康障害をもちつつ生活をしなければならない患者や家族,生命の危機に瀕するような状態に陥っている患者や家族,先天性疾患や障害をもつ患者や家族など,予期せぬ健康障害という大きなライフイベントに直面あるいは経験している人々が多く存在する。そうした健康障害を抱えた患者や家族にとって,医師による治療とともに看護職者からの的確なケアやサポートが重要であることはいうまでもない事実であり,多くの研究によってその必要性が指摘されている。例えばがん患者は,医師には医療情報の提供などの道具的サポートを望むが,看護職者からの道具的サポートとともに情緒的サポートが有効であると認識していると報告されている(Dakof & Taylor, 1990)。
患者や家族は,予期しない健康障害によって大きなダメージを受け,ストレス状態に陥ることを避けることができず,またストレス状態からなかなか立ち直ることができずに苦悩していることが多い。しかし,実際の闘病過程においては,当事者である患者や家族が,自らの力で健康障害に立ち向かうことが必要である。つまり,患者や家族自身が,現実を受けとめ,主体的に困難な事態を乗り越えて,病気の回復に向けてあるいは病気とともに生活していくことができるように努めることが重要であるといえる。
レジリエンス(resilience)は,「避けることのできない逆境に立ち向かい,それを乗り越え,そこから学び,さらにそれを変化させる能力」などと定義され,誰もが保有し,どの年代でも伸ばすことができるものとされている(Grotberg, 1999)。しかし,レジリエンスに関する定義は,まだ統一されたものはない段階にあり(石原・中丸,2007),比較的新しい概念であるといえる。Mastenら(1990)は,レジリエンスという言葉を,日常的な生活ストレスではなく,厳しい状態をもたらす事態(adversity)から生じる場合に使用することを推奨している(Masten, Best., & Garmezy, 1990)。
また,これまでのストレス研究で示されている作用の段階や既存の概念との関連で考えると,レジリエンスはストレスを予防する段階で働くのではなく,過大なストレスによって危機状況にある状態からの立ち直り,あるいは回復の段階で作用するものであり,既存の自己概念やサポート概念などを包含した複合的概念であると思われる。またレジリエンスは,個人のパーソナリティとしてすでにつくりあげられたものというよりも,周囲からの働きかけや支援によって変化する個人的特性とみなすことができると考えられている(Grotberg, 2003)。このことは,危機状況からの回復を促進し,状況に適応するための意図的な介入が可能であることを示唆しているといえる。
看護職者は,病気から生じる身体症状に対するケアや,治療を継続する上で必要な専門知識の提供などの身体面での援助だけでなく,患者や家族が健康障害から生じた予期せぬ現実を受けとめ,それによって生じた危機状態から自らの力で乗り越えていくことができるように側面から支援することを以前から実践してきた。それは,レジリエンスという概念では表わされてはいないが,患者や家族のレジリエンスへの介入に類似した看護援助ではないかと予測される。
そこで本稿では,レジリエンスという概念の看護への活用という観点で,臨床現場で看護職者が行なっている患者のレジリエンスを引き出す援助について,その構造を明らかにし,それらの援助に看護職者の個人要因や職場要因,および看護職者としての職務キャリアがどのように関連しているかについて研究してきた結果を中心に述べたい(藤原ら,2006)。
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