- 有料閲覧
- 文献概要
- 1ページ目
- 参考文献
- サイト内被引用
はじめに
些細なことでも不適応になってしまう人がいる一方で,大変な危機的状態を経験し一時的に不適応を起こしてもそこから立ち直っていく人がいる。つまり,同じ危機的状況に直面してもその後に出現する反応は多様である。
現代社会では,われわれは日常生活のなかにおいてもさまざまなことを経験する。それは発達段階における発達課題であったり,学業生活,対人関係,仕事関係,愛する対象との別れ,あるいは死など,発達過程で避けることができないライフ・イベントから,予期し得ないような事故,災害,病気,家庭内暴力や虐待,あるいはテロからの攻撃など,多数の個人が必ずしも経験しない特異的なネガティブ・イベントまでが多岐にわたって存在している。しかし同じようにストレスフルな体験をしても,すべての人が同じような不適応症状を示すわけではないことが見いだされ,その後多くの研究者から,心理的社会的に不適応症状を起こす場合もあれば,それを示さずに精神的健康を維持しているものがいることの報告より,この個人が示す特性に注目したRutter(1985)は,レジリエンス(resilience)という概念を提唱した。
レジリエンスを辞典で引くと「跳ね返り,飛び返し,弾力,弾性,元気の回復力」とある(ジーニアス英和辞典,2008)。この自我に内在する回復力としての人間のもつ強さが注目され,何がそれを可能にするのかについての検討が,近年行なわれている。米国心理学会(2008)では,レジリエンスはトラウマ,悲劇的な脅威,ストレスの重大な原因などの逆境(adversity)に直面したときに,それにうまく適応するプロセスであるとしている。そして,レジリエンスは性格などの特性(trait)ではなく,人々が保持している行動や思考,行為に含まれ,誰でもが学習することが可能であり,また,発展させることができるものであるとしている(American Psychological Association, 2008)。
Copyright © 2009, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.