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はじめに
日経新聞のデータベースによれば,“成果主義”は,1992年にはじめて登場したといわれ,比較的新しい言葉である。これまで日本では,がむしゃらにがんばればなんとかなる,額に汗してがんばれば必ずよい結果(アウトカム)につながると考えられてきた。また,必ずしもよい結果が得られなくとも,七転び八起きの精神で,失敗を教訓として再起すれば,すばらしい結果に結びつくと考えられてきた。高度経済成長時代には,「とりあえずやってみよう!」という方法が創造性の源になっていたのかもしれない。
しかし,1990年代に入り,少子高齢社会の到来,経済の停滞,消費者意識の高まりといった社会環境の変化に対応し,プロセス重視の社会から,アウトカム重視の社会へと急激なパラダイム・シフトが起こってきた。企業は生き残りをかけて,期待するアウトカムに達するためにはどのような戦略(工程管理)をたてればよいか,効率性を追求するようになった。その結果,企業は顧客の満足を第1に考えるようになり,顧客本意のクオリティと価値を追求するようになった。
アウトカム重視の工程管理は,米国の医療制度にも及び,1983年DRG/PPS(診断群別包括支払い方法)の採用,1985年米国マサチューセッツ州カレン・ザンダーによるクリニカルパスの開発(嶋森,2001),1986年米国の医療機関認可合同委員会(JCAHO : Joint Commission on Accreditation of Healthcare Organization)によるアウトカム指標の認可基準への導入(菅田ら,2000)となった。
この流れは,わが国の医療評価システムにも大きな影響を及ぼし,『看護研究』誌において,「特集:看護実践における評価研究―ケアの効果はどのように測ることができるか」(聖路加看護大学公開講座委員会,1989)が組まれた。その後,看護ケアの質の評価や保証(QA : Quality Assurance)について研究する看護QA研究会(代表:南裕子)が結成され,この会を中心に1993年の厚生省看護対策総合研究事業として「看護ケアの質の評価基準に関する研究」が行なわれた。この研究では,ミシガン大学のAvedis Donabedianによる医療評価モデルの概念枠組みが用いられた。Donabedianが提唱した「構造(structure)」「過程(process)」「結果(outcome)」の3つの視点から医療評価を行なうという考え方は,現在広く用いられている(長谷川,2002)。
医療評価に関する研究は,1980年頃から本格的に始まった長期大規模臨床試験と関連し,臨床疫学の発展に伴って,具体的なアウトカム指標を提示する段階まで飛躍的に進んだ。1991年には“根拠に基づいた医療”(EBM : Evidence Based Medicine)に関する論文発表がなされ,1990~2000年は多くの長期大規模臨床試験をもとにEBMをつくる時代といわれた。
2000年代は,EBMを使う時代といわれ,学会主体の診療ガイドラインが続々と策定され,医療の標準化(standards of medical care)が急速に進んできた。医療の標準化によって,従来の権威主義や経験主義は通用しなくなり,医療の透明性・安全性・経済効率の重要性が増すようになった。しかしながら,診療ガイドラインは二次資料であり,そのもととなる論文に当たらなければ,なぜそのような結論に至ったかという根拠を理解できないのも事実である。そのためには,非常に高い学識と,臨床能力が要求される。一方,患者にとっては,根拠が導き出された理由を認識することよりも,診療ガイドラインを臨床に反映させる(using in clinical practice)ための,具体的な教育ストラテジーが必要ではないだろうか。いい換えると,医療側には,診療ガイドラインの策定と平行して,患者立脚型アウトカム指標および評価尺度の開発が求められている。同時に,看護においてもEvidence Based Nursing(EBN)という流れが起きている。
そこで本稿では,医療評価の基本的な要素,つまり「構造」「プロセス」「アウトカム」に関する歴史的変遷を知るとともに,米国糖尿病教育者協会(AADE : American Association of Diabetes Educators)が開発した全米糖尿病教育アウトカムシステム(NDEOS : National Diabetes Education Outcomes System)(Mulcahy/森川,2002)に着目し,糖尿病疾病管理を皮切りにアウトカムの概念枠組みと歴史的経緯を述べ,糖尿病アウトカムの明確化の必要性を示す。
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