レポート
アデレード女性刑務所(Adelaide Women's Prison)における社会復帰に向けた取り組み
鈴井 江三子
1
,
濟木 幸
2
,
西村 明子
3
1大手前大学大学院国際看護学研究科
2加古川刑務所
3兵庫医科大学看護学部
pp.562-567
発行日 2024年12月25日
Published Date 2024/12/25
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1665202369
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女性受刑者のトラウマに配慮した支援策を求めて
筆者(鈴井)は,2013(平成25)年2月に発足した「女子刑務所のあり方研究委員会」と,同委員会を中心に始まった「女子施設地域支援モデル事業」に2016年から関わり,今年で9年目を迎えました。その間,18歳未満の子どもをもつ女性受刑者への子育て相談をしながら,女性受刑者を対象とした調査も実施してきました。その結果,全女性受刑者のうち18歳未満の子どもをもつ女性受刑者の割合は約40%であることが分かりました。また,覚せい剤取締法違反(以下,覚せい剤)で入所している女性受刑者の多くは,家族機能が乏しい環境で育ち,被害児童としての被養育体験をもっていることも分かりました。加えて,罪名に関係なく実父や義父・内縁の夫に性暴力や恐怖体験を受けた女性受刑者の多くは,小学校高学年から家出や夜間徘徊を繰り返し,シンナーを常用後,覚せい剤の使用につながっていました。特に,性暴力の被害児童は,中学生頃からその怒りや憎悪をぶつけるように,いわゆる「おやじ狩り」や集団リンチなど,破壊的・暴力的行為に及んでいる者もいました1)。
こうした被害児童としての行動特徴は学校や社会の中で理解されず,地域社会から疎外され,信頼できる人間関係の構築も乏しいままに成長するという成育歴につながり,覚せい剤を介しての利害関係が主な人間関係になることも少なくありません。そのような女性受刑者は,適切な養育体験や信頼する人間関係が乏しい中で,妊娠・出産を繰り返し,自分の子どもとの接し方が分からないと葛藤しています。
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