連載 日本の「助産師職」のルーツを究める旅をご一緒に 産科医・楠田謙藏氏による産婆支援の足跡を追って・2
「見えない存在」となった現代助産師
吉村 典子
pp.208-213
発行日 2022年4月25日
Published Date 2022/4/25
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1665201997
- 有料閲覧
- 文献概要
- 1ページ目
- 参考文献
はじめに
今,助産師*は何をする女性なのか,若い女性たちには見えていないという。都内の大学で,「女性キャリア論」を担当する女性研究者は,女子学生たちが「産婆」という字を読めず,現代の助産師という職業を知らないと話してくれた。
そのエピソードを聞きながら,私は50年前,不安でいっぱいの自身の初産を前に,いつも主治医のそばに立っていた看護婦(後で,助産婦だと知った)に,ためらいつつ「あの〜,お産ってどんな……」と,質問しかけた時のことを思い出した。彼女は私の質問を遮り,「先生(産科医)にお任せしておけば,安産させてくれますよ」とだけ答え,何一つお産について語らなかった。当時の助産婦も,自分に注がれる専門的助言を求める妊婦のまなざしに何も答えず,また,妊婦である私にも,助産婦の「ハート」は見えなかった。
一方で,私は近年まで,助産学専攻の若い女子学生たちの養成最終期の教育に携わってきた。病を得て退いたが,若い彼女たちは,大変なカリキュラムをこなしながら,「出産および助産」に果たす助産師という職能を理解し,専門知識を吸収して技能を磨こうと,「真っ正直」に努力していた。「いい助産師になろう」とする熱気があふれる女性たちであった。私は,その学生たちに,毎年度の講義の最後に,必ず「自分が出産する時は,誰に介助してもらいたいか」と,アンケートを取ってきた。すると彼女たちは,どの年度の女子学生もほぼ全員,「助産師に介助してもらいたい」と答えている。なぜだろう。
以上の例を参考に,現代助産師が妊産婦に見えない存在になったことの原因を考えてみたい。
Copyright © 2022, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.