連載 周産期の生命倫理をめぐる旅 あたたかい心を求めて・20
遺伝子をめぐる生命倫理(Ⅱ)
仁志田 博司
1
1東京女子医科大学
pp.730-734
発行日 2014年8月25日
Published Date 2014/8/25
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1665102890
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組み換えDNA技術導入をめぐるモラトリアムの歴史
今回は,組み換えDNA技術が開発された時に,それが生命自体に触れる画期的なものであったことから,研究者側から自己規制を行なったという,生命倫理を考えるうえで特筆すべき歴史があったことを振り返る(表2)。
1970年,Paul Bergがファージを用いて動物の腫瘍ウイルス(SV40)を細胞内に入れる実験を行なったのが,組み換えDNA技術開発の夜明けであった。その実験にかかわった若い研究者が,自分が行なっている研究がSF小説のように「人類の未来に大きな害をもたらす可能性はないだろうか」と素朴な疑問をもったことがきっかけとなって,その技術を用いた実験を自主的に中止するというモラトリアム(執行猶予,安全確認まで一時的に止める)を研究者自身が決めることになった。それは環境学者や宗教家などの周囲からの圧力でなく,科学者たちがその良心に基づいて,一時的ながら自分たちが研究を進めることの是非を考える時間をもったという,生命倫理を考えるうえでの歴史的な出来事であった。
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