連載 バルナバクリニック発 ぶつぶつ通信・111
マメルのお産[後編]
冨田 江里子
1
1バルナバクリニック(フィリピン)
pp.592-593
発行日 2013年7月25日
Published Date 2013/7/25
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1665102531
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投げ出された赤ちゃん
生後4日目になる深夜,マメルの怒鳴り声と火がついたような赤ちゃんの泣き声が,川沿いの貧しい家に響いた。少し前,眠っていたマメルの横に赤ちゃんを連れていって,先ほど床についたばかりだった実母は,その罵声に飛び起きた。「行ってみたらね,赤ちゃんが土の上に転がって泣いていて,マメルは叩くつもりでこぶしを振り上げていたの。あぁ,やはりこの子に赤ちゃんを育てるのは無理だな……と思ったわ」と実母が言った。
赤ちゃんの世話は,母親にある種の犠牲を強いるものだ。精神遅滞のマメルが出産後すぐに赤ちゃんに母乳を飲ませ,その後も機嫌よく授乳していたからといって,母性は簡単に育つものではなかった。たぶんマメルは,24時間体制の子育てのほんの一部を経験しただけで,赤ちゃんに飽きたのだ。今はもう,触らせてもらえなくても文句を言う気配はなく,泣いていても心配することも,自分の子だと主張することも一切ない。
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