連載 バルナバクリニック発 ぶつぶつ通信・91
10人目のお産
冨田 江里子
1
1St. Barnabas Maternity Center
pp.1036-1037
発行日 2011年11月25日
Published Date 2011/11/25
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1665102049
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産婦が帰ってから肝を冷やす経験をすることがある。その日は深夜から合計5人の赤ちゃんが生まれかなり忙しかった。3件目の産婦が佳境を迎えているときに,10人目のお産のサムはやって来た。
手ぶらでクリニックに飛び込んでくる人はたくさんいるが,売り物の魚をバケツいっぱい持ってきた産婦はサムが初めてだ。市場で魚を売っている最中に陣痛が始まったらしい。クリニックに到着するとすぐにそこで販売を始めた。お産の部屋で陣痛の人をみている私たちに,安い魚を求める主婦たちの声が聞こえる。何が起こったのかと薄い壁越しに問えば,外から「もう1人産婦,10人目だってよ!」と誰かが気楽な声で答えた。魚はあっという間に完売し,私が待合室に出た時には魚もバケツも付き添っていた家族の姿もなく,サム1人が何も持たず座っていた。
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