連載 バルナバクリニック発 ぶつぶつ通信・27
お産文化の多様性
冨田 江里子
1
1St. Barnabas Maternity Clinic
pp.552-553
発行日 2006年6月1日
Published Date 2006/6/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1665100135
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文化の違いとお産
お産さえたくさん経験していればどこの途上国でも助産師は歓迎され,いい助産ができるのだろうか? ここに住み始めてすぐにいくつかお産を頼まれたことがあった。まだ,私自身が十分にフィリピンの言葉も文化も理解していない頃だ。当時の私にお産を頼む人は2種類の人たちだった。前回の出産経験が最悪の結果だったため,自国の医療者を信じられなくなった人か,今回のお産のための費用が捻出できない貧しい人々だ。
9年前,我が家の斜め前のバラックに住む24歳のエミリンダから,私はお産を頼まれた。今回が3人目の出産で,「今までのお産は軽かった」と言う。お産には何より信頼関係が大切だ。近所なので定期健診をするのも簡単で,毎日の家事の度私たちは顔を合わせていた。経過は順調。お産の進行が前回早かったので,今回はもっと早いと彼女は考えているようで,10か月に入ってから軽い痛みがある度に,「生まれそうだ」と何度も呼び出された。その度に,「これは前駆陣痛だから産まれない」と話すにもかかわらずエミリンダは理解しなかった。お腹が少しでも張ると彼女は眠ることを嫌い何とか起きていようとしている。強い痛みが来る度に呼び出される,しかしお産になる様子はなく,しばらく陣痛に付き添っては,「まだまだだから少しでも寝たほうがいい」と同じアドバイスを繰り返した。
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