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はじめに
「日本のお産は安全」との一般的認識1,2)に反して,周産期医療の現場では特に初産婦で「手のかかるお産が増えた」との印象が強い。今年の母子健康手帳改正で妊娠経過の記載欄が充実した背景には,高齢妊娠や合併症妊娠などのハイリスク妊娠の増加があるとされる3)。また,水上は「産婦人科診療ガイドライン―産科編」初版の序文で,妊婦1人に必要な医療提供量の増加が将来の周産期医療提供を危ぶむ一要因と指摘した4)。しかし,その事実を示す公的な統計資料は,妊娠の高齢化5),低出生体重児5)・帝王切開比率の増加6)以外に見当たらず,出産状況の詳細は不明な点が多い。
われわれは先に,東京都内の一産科病院で2008~2010年の約1300名の分娩記録(助産録)から,微弱陣痛(22.0%),子宮収縮不全(36.5%),分娩遷延(8.7%),弛緩出血(25.3%)のいずれかを有する者が過半数に上り,わずか3年で増加している可能性があることを報告した7)。本結果は,島田らの全国調査による微弱陣痛の比率(1999年10.1%,2005年12.0%)8),東京都の1988~1991年の分娩遷延(3.5%),微弱陣痛(14.1%),弛緩出血(4.3%)9)より明らかに高率であることから,ローリスク妊娠においても分娩リスクが加速している可能性がある。ハイリスク妊娠・分娩に関する調査としては,1991~1994年の武田らによる加齢と母体死亡リスクの詳細な検討があり9),その後のハイリスク妊娠・分娩の管理の進歩につながった。
そして,昨今は周産期の各指標が世界最高レベルに達して久しいことから,お産は安全であって当然との認識が一般に浸透して,妊産婦やその家族の分娩に伴う危険性への理解が乏しくなり,そのことが周産期医療の課題をより複雑にしている可能性もある。松田らは,妊娠リスク評価を目的にケース・コントロール研究を行ない,喫煙,35歳以上,不妊治療,分娩回数を妊娠高血圧などの妊娠リスク要因とした10)が,分娩リスクについては不明である。
そこで本研究では,「手のかかるお産が増えた」という助産現場の印象を,実際の分娩記録から検証することを目的に,一般病院におけるハイリスクではない分娩の実情を調査するとともに,微弱陣痛,分娩遷延,子宮収縮不全および弛緩出血の相互の関係を,初産婦と経産婦別に検討した。
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