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はじめに
妊娠42週を超える過期妊娠の危険については異論がない1)。しかし1990年以降欧米では,妊娠42週未満であっても周産期リスクが高まるとする報告が相次ぎ2-6),分娩誘発の時期が論じられている。例えばCaugheyらは約12万人の後方視的コホート研究から,妊娠週数が40週を超えると帝王切開,遷延分娩,分娩多量出血(postpartum hemorrhage;以下PPH),3度以上の会陰裂傷,絨毛膜羊膜炎が増加する(オッズ比;1.1-1.8)と報告した2)。
さらに彼らは分娩誘発と待機を比較した総括論文で,妊娠週数41週以降の分娩誘発は,帝王切開と(胎便の混入した)羊水混濁のリスクが待機より少ないと述べた3)。その後Stockらは,満期産(37〜41週)の約127万人を分娩誘発群と待機群を週ごとに比較し,分娩誘発群で周産期死亡率,帝王切開,鉗子・吸引分娩が低率である反面,新生児ユニットへの入院は40週までは高率であると報告している4)。
日本では本領域に関する研究は見当たらず,産婦人科診療ガイドラインは欧米のデータを参考に,妊娠41週以降妊婦の取り扱いを「胎児の状態を慎重に評価しながら,分娩誘発か陣痛発来待機,妊娠42週以降は分娩誘発を考慮すること」とした7)。したがって,日本人でどの妊娠週数からどのような分娩リスクが高まるかは,産科臨床における重要な関心事と思われる。また先進国においては分娩誘発3)やPPH8,9)が増加していることから,現時点では,経時的変化が生じている可能性も否定できない。
先にわれわれは,東京都内の一産科病院における約1300名のローリスク分娩記録から,①微弱陣痛,遷延分娩,子宮収縮不全,弛緩出血等がわずか3年で増加傾向にあること10),②微弱陣痛の遷延分娩に,また子宮収縮不全の弛緩出血に対するリスクは初産婦(約6倍,約8倍)より経産婦(約41倍,約17倍)で高いこと11),③初産婦の上記分娩異常に妊娠週数,年齢,妊娠前BMI,体重増加量,妊娠経過中異常数,胎盤異常所見数が関連することを報告した12)。とりわけ③の結果12)は妊娠週数と分娩リスクの関係が不明な日本の現状では注目に値する知見と考えた。
そこで本研究では,先行研究の対象者11)を再分析し,妊娠週数と分娩の母児リスクとの関連を,初産・経産別により詳細に観察し,40週以上と41週以上でリスクがどう変化するかを検討した。
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