連載 りれー随筆・301
家族と仕事への思い
柄山 禪
1
1つくし助産所
pp.98-99
発行日 2010年1月25日
Published Date 2010/1/25
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1665101595
- 有料閲覧
- 文献概要
走り続けた日々をかえりみて
「大事な時に,お母さんはいつも家にいない」と,たびたび子どもたちに言われていました。思い返すと,保育園の入園式,入学や卒業式,運動会や参観日はもちろん,町内が浸水するほどの大被害が出た水害や大雨の時も,大地震で姉妹の安否もわからず,家族中が必死で消息を尋ねていた時も,私は仕事で家を空けていました。義母が危篤との連絡を受けた時も職場の詰め所でした。「助産師だから仕方ない」「核家族で実家も遠いからこれが当然」と思い,ひたすら走り続けていました。就職して3年足らずで分娩取り扱い数が500件を超えた時は,とてもうれしかったものです。
ある時,「お産の時にはお世話になりました。あの時以来,自信を持って頑張れています。子どももこんなに大きくなりました」と頰を紅潮させ,涙を浮かべながら声をかけてこられた方がいました。かろうじてその方の顔は記憶していましたが,お産の状況も,私が当時何を話したのかさえ覚えていませんでした。その場は話を合わせたものの,何も覚えていなかった恥ずかしさと申し訳なさで,気が遠くなりました。「こんな思いはもう嫌だ!」頭のなかで何かがはじけ,自分らしい仕事のしかたを模索する日々が始まりました。
Copyright © 2010, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.