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はじめに
今回は,少し長くなるが,出生直後の新生児ケアに関心をもつようになった件から始めたいと思う。
出生直後の新生児ケアについて,出産を体験している当事者としての胎児・新生児という前提で考えるようになったその最初は,『Nature Birth』1)の翻訳作業をしている最中であった。その当時の私は,助産師として,出産を家族中心のプライベートな出来事として捉えた実践をしたい,施設での家族を排除した体制を変えたいという思いで勤務していたが,新生児のケアについて特別に意識をしているわけではなかった。しかし,『暴力なき出産』(1976,KKベストセラーズ)の著者であるFrederick Leboyerの考え方が紹介された部分を訳しているとき,出産直後の親子の穏かな風景の記述(表1)を通して,施設における家族中心の出産の本質を見た思いがした。そして,出生直後の新生児ケアは,医療者の姿勢に強く委ねられていることを改めて自覚し,出産という大仕事を成し遂げた新生児に,人肌を通した温かさや安心を与え得るケア環境を作りたいと思うようになったのである。
その後,出産の臨床現場には,「母子愛着」の概念が導入された。母子愛着について,子どもから母親に向かう愛着と母親から子どもに向かう愛着(母子結合)を区別し,母子結合の成立には出産後の数日間(感受期と称された)における親密な接触が必要とされた。この母子結合に関する概念の波紋が広がり,感受期は動物実験から類推された仮説に過ぎないこと,早期接触の影響を証明する方法論の限界など反論が出た。しかし臨床現場にある者には,感受期の存在や早期接触の影響が証明されなくとも,医療が母子接触や母子相互作用を妨げる環境であることに気づかせてくれ,改善の契機を与えてくれたことは意義深いことであった2,3)。
出産の自然への回帰は,母乳で育てることにも向けられた。母子異室制や代替栄養の入手が容易というような時代にあっては,人類が哺乳動物といえども母乳のみで育てることは難しい。
WHO/UNICEFは,1989年,医療者向けに母乳育児推進のために「母乳育児成功のための10か条」を提示し,第4条の中で,母乳育児の成功には早期接触が重要であることを「出生後30分以内に母乳育児を開始できるよう母親を援助すること:Help mothers initiate breastfeeding within a half-hour of birth」として示した4)。このエビデンスについては,先行研究を表2に示したように整理したうえで,早期母子接触として最適な時期と時間を特定することはできないが,医学的な理由がない限り,実践現場では遅くとも出生後30分以内には,skin to skin contactを開始し,少なくとも30分間は続けることが望ましいとされた5)。しかし,第4条に関する提言の実行には,分娩室におけるルーチン業務としての新生児ケアのタイミングや内容に左右され,この30分という数字の受け止め方はさまざまである。
本稿では,当大学院修士課程の学生だった古田紀子さん(現在は聖母病院助産師として勤務)の研究論文6)を基に,出生直後の新生児ケアの本質的な意味について検討した。
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