特別寄稿
妊娠・出産とセクシュアリティー―精神的・身体的高揚の源としての出産と性の普遍性
早乙女 智子
1
1ふれあい横浜ホスピタル産婦人科
pp.779-784
発行日 2003年9月1日
Published Date 2003/9/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1665100594
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プロローグ
人類誕生以来,性と生殖は同義語に近いほど密接であった。しかし,昨今の生殖医療の進歩は「性なき生殖」を実現させた。
それでも,人間にとって「性なき人生」を語ることは難しいだろう。パートナーがいること・いないことによる人生の機微,性交に至るパートナーとの交流,喧嘩や駆け引き,そして言葉や肌の触れ合い,粘膜の快感などを想起するとき,10か月という妊娠期間が経っても,女性にとって出産は,あくまでもその流れの中にあって決して性と無関係なものではない。このことは,男性が産科医療の中心を担ってきた戦後の流れの中ではあまり意識されてこなかったのではないだろうか。あらためて成書を紐解いてもやはり出産の快感に焦点が当たっている記述は少ない。しかし,性が生殖を1つの目的とし,妊娠がその通過点である如く,性の営みの中において出産は特殊なことではなく,過去・現在・未来の軸の中でやはり1つの通過点である。性交にエクスタシー(オーガズム)が伴うことを求めるのと同じように,出産は生殖の快感であるはずだと考える。しかし一方では,より安全で快適に暮らせるようになってきた現代社会の中で,出産は女性と生まれ出る新たな命にとって,比類なき生命の危機をする体を張った仕事でもある。そこが「安全か? 快適か?」という命題を生じる根拠であり,様々な立場が存在する。
人間の生活が画一的でないのと同様,どちらかだけが正しいということはありえず,出産の安全と快適のどのようなバランスに価値を見出すかの議論に際して,女性の性的健康を充足する観点を除外することは許されないことである。
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