連載 とらうべ
“未来”を見守る大人達
古澤 頼雄
1
1中京大学心理学研究科
pp.713
発行日 2003年9月1日
Published Date 2003/9/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1665100581
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- 文献概要
昨年3月後半に,フィンランド・ヘルシンキから列車で1時間半ばかりのサロという小さな町にある保育園の3・4歳児クラスを3日間続けて訪れる機会がありました。その目的は保育者と子ども達とのかかわりに直に触れることにありました。
2日目の朝,私がその保育園に行ってみると,復活祭が近いこともあって,子ども達はさまざまな色の厚紙でいわゆるイースターエッグを作っていました。みんな材料が置いてある部屋の隅と部屋の中央に置いてある大きな机とを行き来して,思い思いの材料を使っては,楽しそうにそれぞれの思いをこめて,作品を仕上げては窓辺に飾っていきました。手早く作りあげて,部屋のコーナーに行って本を読む子もいれば,積み木をする子もいました。その動きの中で私の目にとまったのは,いかにも考えながら,慎重に,そして,作り直しを繰り返して,ゆっくりと時間をかけている1人の子どもの姿でした。彼は他の子どもが他の遊びへと移っていくのを少しも気にかけることもなく,黙々と作業を続けており,先生が彼をせかせることもなく,時間がこの1人の子どもをゆったりと受け入れているかのように,その場の空気が彼の仕上がりを支えていることに私は人間の暖かみさえも感じました。
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