連載 今月のニュース診断
中高年の自殺・少年犯罪・イラク特措法―「生命の軽視」の時代に
加藤 秀一
1
1明治学院大学社会学部社会学・性現象論
pp.714-715
発行日 2003年9月1日
Published Date 2003/9/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1665100582
- 販売していません
- 文献概要
経済と自殺
先日,釧路に出かけたとき,駅前の一等地にサラ金業者が立ち並ぶ光景に軽い衝撃を受けた。まるでカタログのように,10社ほどが黄色や赤の派手な看板を光らせているのだ。大通りには閉店の跡が目立つのに,いったい誰が金を借り,どうやって返すのだろうか。北海道全体でも,2003年6月の失業率は過去最悪で,前年同月を上回る6.2%に達したと報じられている。『北海道新聞』(7月30日朝刊)の記者コラムでは,釧路の街には若者の姿が見えず,活気がないと書かれていたが,僕の第一印象も同じだった。不況のなかで元気なのは金貸しだけということか。
警察庁発表によると,昨年1年間の自殺者数は3万2143人で,これで5年連続して3万人を超えた(朝日7月25日)。50代,60代男性の「経済・生活問題」による自殺が目立つのは相変わらずで,不況下での収入減や失職が,いわゆる一家の大黒柱として生きてきた人びとの精神を直撃していることがうかがえる。ヤミ金融を利用して借金苦に陥った末の自殺も多いと推測されている。僕の身近にもカード破産した人がいて,僕自身も巻き込まれたことがあるので,なしくずしに増殖する借金がどれほど人間の精神を荒廃させるかはよくわかる。それはすべてを無意味にしてしまう,本当に恐ろしい感覚だ。青木雄二の傑作『ナニワ金融道』が話題を集めたのはもう10年も前のことだが,事態は深刻化の一途をっているようだ。
Copyright © 2003, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.