特集 主体的な出産
水中出産を"見守る"
馬場 善子
1
1久産婦人科医院
pp.403-404
発行日 1987年5月25日
Published Date 1987/5/25
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1611207133
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今,佐藤さんのお産を振り返ってみると,すばらしいドラマとの遭遇だったような思いがする。あのとき,水中出産に立ち合うというまったく初めての貴重な経験を前にして,水中出産に関して猛勉強をしたわけでなく,「水中出産はかくあるべし」などと気負った気持にもならず,ただ自然の成り行きを待つ,見守るというリラックスした気持でいられたことが不思議である。そして,水中出産を援助する者の基本的態度はまさに"見守る"ことに集約されることを確信させられた。
さて,佐藤さんのお産は突然,急テンポで進み始めた。私たちスタッフは身構える暇もなく,「なんとか間に合って!」と分娩室に用意しておいたプールに温水の準備を急いだ。やっとのことで佐藤さんが産衣を脱いでプールに入り,「あっ,痛みが楽よ」「陣痛の間隔もあいたみたい」と,冷静かつ率直なコトバをもらし,「やっぱり楽?」「寒くない?」と応答が始まった頃,私は日常の仕事場である分娩室からまったく別の幻想的な世界へまぎれこんでいた。
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