連載 とらうべ
「知りたかった。おばさん,ありがとう!」
木島 知草
1
1「がらくた座」
pp.621
発行日 2003年8月1日
Published Date 2003/8/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1665100562
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- 文献概要
人形劇屋を仕事として30年,HIV/AIDSとの共生の活動も13年になる。幼児から小・中・高校生や大人,医療の場などに年間100か所,「性,人権,命のメッセージ」と題して語り歩いている。身体をタッチしながらのワークショップ,身体の部分1つひとつの役割を問答し,性器もストレートに明るく「だいじ! だいじね!」と撫でながら,はずかしさを乗り越えて自分の身を守る力を育てようと,低年齢の子どもたちから親子で学び合える場を作っている。手作りの人形劇や紙芝居で性交,妊娠・出産,避妊,中絶,性感染症についても具体的に説明・実演し,性のコミュニケーションの大切さを伝える。生理用ナプキンやコンドームも,マスクや絆膏と同様に身体を守る道具として見せ,触ってもらい,「命を守るために正しく使う練習をしよう」と,中高生には使い方の実践やSTD検査の必要性も語る。
子どもたちはメディアからのあいまいな性情報は知っていても,真正面から性を話し合うことには慣れていない。とまどう表情も見えるが,こちらが説教や倫理観の押しつけではなく,心の底から「あなたの命が大切だから,自分を知り,自分と愛する人の命を守るためにも知って欲しい」と,真剣にごまかさず話すと,目を輝かせ身も心も近づけてきて,「知りたかった。おばさん,ありがとう」と,本当のことを知った喜びを表現してくれる。その姿に私もタイムスリップして同年代に戻っていく。――何も知らされず悶々としていた思春期。性暴力を受けても被害を訴えることさえできず,自分の身の守り方も権利意識さえなかった。妊娠や性感染症のリスクに対しても無知・無防備で,感情に流され傷ついて初めて気づく若者だった。
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