連載 とらうべ
さしのべる手の可能性を求めて
長谷川 まゆ帆
1
1東京大学・歴史人類学
pp.563
発行日 2005年7月1日
Published Date 2005/7/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1665100234
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- 文献概要
さしのべる手のもちうる可能性,それは技術的,力学的な支えには還元されえない。やわらかであたたかい繊細な手が他者の身体に向けてそっとさし出されるとき,手はおそれや不安をやわらげ,代わりに内側からの自信や勇気を呼び起こしていく。ロボットや機械の冷たい金属の無機的な表面とはことなり,生きた人間の手の皮膚には,人間の思考性や感受性,喜怒哀楽や欲望までもが,凝縮された形で体現されているからである。
手はまた,一方的に働きかけたり,何かを伝えるだけではない。触れることを通じてその瞬間に相手からも触れ返され,他者からの応答や発信に真摯に向き合うことを余儀なくされる。事実,熟練した手は,眼に見えない身体の内部の動きを触知し,敏感に感応するセンサーの役目を果たしてきた。
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