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はじめに
保健師の活動場所である地域とは,物理的・社会的・地理的環境や文化や制度など,一定の環境を共有する人々が暮らす場所である。また,生活とは人が生きていく営みであり,地域で一緒に暮らす人々の関わりや地域環境の影響の中で,多様な価値観が存在する。地域での生活は,その環境を享受し,そこにいる人々と折り合いを付けながら生きていくことであるが,折り合いを付ける場面では,その人の価値観や主体性が発揮される1)。
こうした地域生活の特性により,暮らしの中には価値の対立が生じやすいことが推察される。価値の対立の背景には,制度に関する情報不足,社会的孤立,貧困,家族に頼らざるを得ない状態などの個々人の事情や2),多様な専門職・機関との関係に生じる問題がある2,3)。
そのため保健師には,価値の対立の背景にある事情と人々の関係性を十分把握し理解すること,そして課題の本質は倫理的課題であることを関係機関に説明し,倫理的視点に立ったアプローチが求められる2)。
一方,看護職の倫理教育の現状について,保健師と訪問看護師の70〜80%は日常的に倫理的課題に遭遇しているものの,倫理教育を受けた者は6〜20%にとどまり3),公衆衛生看護の倫理に関する独立科目はない4)。暮らしの中で生じる課題を倫理的視点に立って取り組むことは保健師の活動において非常に重要であるが,体系的に学ぶ機会や仕組みが整っているとは言えない。
このような中,公衆衛生看護における倫理的課題に気付く力と倫理的課題のある事例を支援する力を培うことを目的に,筆者を含めた関西地区を中心に活動する専門看護師(Certified Nurse Specialist:CNS)らが中心となって勉強会を定期的に開催する自主組織を立ち上げた。現任の保健師として行政機関や地域包括支援センターなどで活動する専門看護師(地域看護分野)や専門看護師を目指す学生が参加し,支援困難事例をテーマにした事例検討や看護倫理など専門看護師に関する実践の勉強を行っている。勉強会では何が倫理的課題なのか,自分のアセスメントや支援方法が正しかったのか,いつも問い掛けている。
本報告は,勉強会を通じて公衆衛生看護における倫理的課題に気付く力と支援する力を高めるために取り組んだことについて報告し,困難事例の支援力向上の示唆を得ることを目的とする。
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