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はじめに
私は統計学の専門家ではありません。統計学の専門家でもないのに,このシリーズを執筆した理由について述べたいと思います。
私は長年,医学部の内科学講座で学生教育や大学院生の研究指導および自身の研究を行ってきました。また,医学部附属病院の内科で,多くの患者さんの診療にも携わってきました。これらの教育・研究活動や診療活動には,医学的知識はもちろん,統計学や疫学の最低限の知識が必要でした。それらを知っていることは特殊な能力ではなく,当たり前のことでした。
山形市が2019(平成31)年4月に山形市保健所(仮称)を開設したいとのことで,私は2017(平成29)年3月に医学部を退職し,山形市役所の保健医療監に就任し,保健所開設の準備に当たりました。その間,市役所の保健・健康事業に携わる職員(多くは保健師)に医学・医療の勉強会を定期的に主催してきました。そこで強く感じたのは,「ほとんどの人は,統計や疫学の知識がない」ということでした。彼らの多くは,市民の健康に関するデータを取り扱い,平均値を算出し,棒グラフなどを作成していますが,疫学や統計学の知識・技術がないため,それらのデータが十分に生かされていませんでした。
この現状は,彼ら個人の責任というより,むしろ,彼らに十分な教育の機会を与えなかった指導者層にも責任があると思います。しかし,視野を山形市役所の外部に向けてみると,同じような状況が県内のみならず,県外の自治体にも認められることが分かりました。
保健師の多くは,学生時代に統計学の授業を受けたはずです。しかし,彼らが異口同音に訴えることは,「難しい数式が出てきた途端,授業が別世界のように感じられ,それ以降,全く理解できなくなった」ということです。したがって,現在の学生が受ける授業にも問題があるように感じています。
市町村役場や保健所は,住民の健診データを集計・解析・評価し,それに基づいて住民の健康対策や健康行政の指針を立てることがきわめて重要です。この住民の健診データを集計・解析・評価する過程は,疫学・統計学そのものと言っても過言ではありません。今後,その重要性はますます大きくなっていくことは間違いありません。
以上のような現状を少しでも改善したいと考え,自身の浅学を顧みず,本連載を執筆した次第です。本連載は,統計解析法の全体像を網羅するものではありません。あくまで,初心者を念頭に,地域の保健統計で必要な最低限の項目を厳選し,「保健行政の現場で,実際に統計解析ができる」ことに重点を置きました。したがって,数式は一切使用せずに解説しました。本連載が終わるころには,あなたが統計ソフトを使って統計解析を行っている姿を想像してみてください。きっと,うれしいと思います。私もそのような保健師さんの姿を拝見したいと切望しています。
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