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はじめに
近年,わが国の保健医療福祉施策は,「入院医療中心から地域生活へ」という基本的方策として,2004(平成16)年9月に策定された精神保健医療福祉の改革ビジョンから始まり,精神障害者の地域移行や地域生活を支援するためのさまざまな取り組みが始められている。その取り組みの1つとして精神科訪問看護がある。
精神科訪問看護は,萱間1),瀬戸屋2)によると利用者の生活技能をモニタリングすることにより精神症状の悪化を予防できること等が報告されており,精神障害者の地域生活定着支援のためにその充実や拡充が求められている。しかし,病院という制限のある空間を離れ,多様で個別性のある生活環境や家族関係などに対する支援を含む精神科訪問看護では,精神障害者の生活の中のニードを把握し,何を援助してどのように評価していくのかという迷いが,訪問看護師に生じることも多い。
また林3)は,「在宅精神障害者の訪問看護の困難」としては,[契約遂行の困難][在宅での援助の困難][関係者との連携の困難][看護師同士で支え合う困難]が顕在すると示した。そして,その困難の解消には,スタッフとの振り返りのみならず,第三者からのコンサルテーションなどの訪問看護師を支える組織的な仕組みづくりが必要であると述べている。
萱間4)らのモデル事業「精神障害者の地域生活支援を推進するための精神科訪問看護ケア技術の標準化と教育およびサービス提供体制の在り方の検討」では,精神科経験の豊富なコンサルタントが,精神科病院の経験がない,あるいは精神科訪問看護の経験の少ない訪問看護師に対してコンサルテーションを行った。そのコンサルテーションは「役に立った」「看護の振り返りや評価ができた」等と評価されたとの報告がある。
橋爪5)は,「精神科訪問看護コンサルテーション事業を継続しながらエビデンスの蓄積をしていく」重要性を述べており,コンサルテーションを行うことが精神科訪問看護の困難の解消に役に立つのではないかと言われている。
このように精神科訪問看護のコンサルテーションの必要性が言われている中,訪問看護師の多くはコンサルテーションを受ける機会がほとんどない。しかし,今後さまざまなところでコンサルテーションは実施される必要があると考える。また,林6)によると,日本国内の訪問看護ステーションで働く看護師が精神障害者への援助でどのような困難を感じているのかを明らかにすることは,今後,精神障害者への訪問看護が広く普及するために緊急な課題であると述べている。
そこで,筆者らは精神科訪問看護師が困難な事柄に対した際の相談支援体制として,コンサルテーションを実施した。その目的は,精神科を標榜している病院が設置する訪問看護ステーションの訪問看護師にコンサルテーションを実施し,精神科訪問看護の問題を明確化することとした。
なお本稿では,コンサルテーションについて,カプラン(Caplan)の「クライエントのケアを改善するための2つの専門家の相互関係のプロセスである」7)という定義を用いた。
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